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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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最終電車-4

すっかり居心地が悪くなったあたしは、自分の爪先をぼんやり眺めた。


赤い革のクロスベルトタイプのサンダルからチラリと覗く、パールピンクのペディキュア。


あ、親指の所が少し剥げてる。


帰ったらお風呂入って塗り直さなきゃな……なんて、現実的なことを考えていたら、突然頭に軽い衝撃。


ビックリして顔を上げると、駿河が呆れたような顔であたしを見つめていた。


さっきの攻撃はチョップだったらしく、駿河はピンと張った右手をゆっくり下ろした。


「あ、……何?」


「何、じゃねえよ。人の話はちゃんと聞いてろ、アホ。……で、お前はどうする?」


「へ?」


鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔で駿河を見ると、奴は大きなため息を吐いてからおもむろに口を開いた。


「松本が、これからオールで打ち上げしようって言うんだけど、お前はどうするって聞いてんの。最終来るまで決めないといけねえだろ?」


「え、だって里穂ちゃんは駿河と二人で……」


そこまで言いかけた時、斜め前から聞こえてきたケホンケホンというわざとらしい咳。


里穂ちゃんはさらに、あたしにさりげなく数回の瞬きをしてアイコンタクトを送ってきた。


あー、なるほど。そういうことね。


いきなり二人きりで飲みに誘ったら不自然だから、あたしに辞退してもらうという、自然な形で二人きりになりたいわけか。


里穂ちゃんがこっそり合図を送って来た姿が可愛くて、ムクムク姉御肌気質が表に出てくる。


あたしも駿河に気付かれないように不慣れなウィンクでアイコンタクトを里穂ちゃんに送り、それから駿河に向かってニッと笑いかけた。


「ごめーん、あたし疲れたから今日はパス。二人で行ってきなよ!」


顔の前で両手を合わせて謝るあたしは、我ながらなかなかの役者だと思う。


そうだよ、応援してって言われたんだから、応援するのが筋なんだ。


駿河が誰と付き合おうが、あたしには関係ないんだから。


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