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栗花晩景
【その他 官能小説】

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風化(2)-4

 私たちは肌をくっつけながら夜遅くまで話をした。私は性体験のことを、彼女はセックスへの抵抗感を自分なりに分析した。
 親のセックスを目の当たりにしたことが心に焼きついていると話した。
「六年生の時。その時は意味がわからなかったけど、あとになってなぜかお母さんが汚いって思うようになったの……」
「大人になってみれば汚いことじゃないってわかるだろう?」
「わかる。頭では……。でも、どこかでその時の感情がへばりついているみたいで……」

 話しながら、私の手は和子の体をあちこち摩ったりまさぐったりし続けていた。和子は嫌がることもなく、局部以外は積極的に押しつけてきて気持ちがいいと悦んだ。内腿を触れると流れ伝った液。
「こんな方まで濡れてる」
「だってこうしてるとどんどん出てくるんだもん」
「じゃあ、やめようか」
「いや……」
和子の手の中でふたたび硬くなった。
「待ってて……」
「わかってる……」
 倦怠感に被われる中、いつしか波のような睡魔が繰り返しやってきた。

 この時の触れ合いは紛れもない性行為である。しかしながら、互いの意識の在り方が通常と異なっていたのも明らかであり、そこでの心の交錯を考えるとセックスといえるものなのか不可解な気もする。

 女として和子は私を、私は男として和子を、それぞれ異性として意識したからこそ反応をきたしたのだが、それにもかかわらず、衝動に呑まれることもなく制御が働いたのはなぜかと思う。全裸で肌を合わせ、堪らず射精してしまったが、私の心にはある形が自覚されつつあった。

(友情……)
漠然とした想いではあったが、強いていうならこの言葉が浮かぶ。気持ちの中で、女性として想う愛しさとは別に温かなものを彼女に感じ始めていたのである。
 一緒に寝れば性的昂奮が起こる。だが同時に、柔らかく包まれるような爽やかな心地よさに平穏な心境になっている。それが『友情』といっていいものなのか、よくわからない。
 妙な約束をした。いずれ彼女と結ばれるかもしれない。きっとそのつもりで向き合えばひとつになるだろう。だが、別の想いもある。
(今度は純粋に山を歩いてみようか……)
和子と二人で汗びっしょりになって。そう考えると浮き立つ気分になった。


 それからわずか数日後のことである。
古川の様子がおかしいと気づいたのは現場に着いてしばらくしてからだ。いつもの饒舌がなく、無闇にぶらぶらと歩き回ってばかりいる。パイプ椅子にふんぞり返って煙草を喫って一日を過ごすのが彼の姿である。
「何か変じゃないか?」
大野に言うと、二日酔いだろうと言う。そう言われれば寝不足の顔にも見えるし、頻繁に水を飲んでいるようだ。

 昼休みに資材置き場で休憩していると古川が薄ら笑いを浮かべながらやってきた。
「やっと酒が抜けた。午前中はむかむかしてな」
「二日酔いですか」
「ああ、ちょっと飲み過ぎた」
大野が目配せして笑った。
「そうだろうと思いましたよ」
「まあ、訳あって飲み過ぎたんだ……訳あってな……」
「へえ……」
私も大野も黙っていた。古川が自分で話を持ち出すとき、楽しい内容であったためしがない。自慢話か露骨なエロ話と決まっていた。私も大野も辟易していたので聞きたくなかったのだ。

「ゆうべは参ったよ」古川はなおも私たちを交互に見て、言葉を切ると、もったいぶった目つきを向けた。あまり間があくので、
「何かあったんですか?」
仕方なく促すと、参ったと言ったわりにはニタニタと笑いながら話し始めた。
「いやあ、手間かかったよ。……田崎とやっちゃったよ」
初めは意味が飲み込めず、大野と顔を見合わせた。

「やっぱり思った通り処女だったよ。シーツが真っ赤。驚いたな」
体が熱くなって膝が震えた。大野は顔面蒼白である。
「どこで……」というのがやっとで、後が続かない。
「ホテルだよ。酔わせてさ。あいつでかいから連れ込むのが大変だったよ」
「田崎、酒がだめなんですよ……」
「そうだってな。そこはうまくやるんだよ。梅酒を炭酸で割るとこれが飲みやすくて後でがくんとくるんだ。倒れてげえげえ吐いたな」

 古川は調子に乗ってぺらぺらと喋った。
「たまたま帰りが一緒になってーー」
女房が実家に帰っていて今夜は外食で寂しいから付き合ってくれと頼んだらついてきた。
「もちろん嘘だけどよ。そして梅酒作戦大成功よ。ぐでんぐでんなのに暴れて手間食った。ほっぺた二、三発ひっぱたいたら泣き出してな。あとは力づくよ。でかい図体でも処女だけあって締まりのいいこと」
突然大野が持っていたコーヒー缶を投げつけ、古川の顔に当たった。
「何するんだ!」
唇が切れて血が流れた。



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