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栗花晩景
【その他 官能小説】

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風化(1)-2

 私は住宅課に配属された。自社の住宅物件を販売する営業職である。毎日、同期の大野と二年先輩の古沢の三人で現場に出かけては接客するのである。といっても見学者はほとんど週末に集中するので平日は持て余すほど時間がある。私たちは内装工事の職人と話をしたり、建築端材を片づけたりして時間を潰した。

 大野は栃木の農家出身で朴訥としたのんびりした性格の男であった。言葉にやや訛りがある上、人と話すのが苦手なようで、営業向きとはいえなかった。
「俺、事務希望っていったのに」
根が真面目なので仕事は精一杯努力していたが接客を見ていると言葉に詰まることがよくあった。
「いやだなあ、俺……」
私といる時の彼の口癖であった。

 古川はすでに妻帯者であったが、落ち着きがなく、好色で暇さえあれば女の話をしていた。
「どんな女でもヒイヒイ泣かせる自信あるぜ。学生の頃はもてたんだけどな。特に年上。女日照りがなかったからな。最近はだめだな」
「奥さんがいるんでしょ?」
「女房は女房。人生は短いんだからやらなきゃ損だよ。今年の新入社員、いいのがいるな」
にたにたといやらしく笑って言う。
「大野君、彼女はいるのか?」
「俺、いないですよ。経験ないです」
大野は隠す様子もみせずに答えた。
「童貞か?ほんとに。会社に女の子いっぱいいるじゃないか。誘ってみな」
「いやあ、無理ですよ。できないです」
「それじゃ毎日シコシコオナニーか」
「いえ、しません」
私と古川は噴き出して笑った。
後日その言葉がまんざら嘘ではないことを知った。

 二人でいる時に真面目な顔で訊いてきた。
「君は夢精したことある?」
突拍子もない問いかけに思わず笑ってしまったが、実は数日前にあったばかりだった。高校の時に経験して以来二度目のことである。
 
 夢に出てきたのは肉体を重ね合った弥生でも晴香でもなく、なぜか細谷と大村真理子である。初めて夢精を経験した時は現れた女に顔も陰部もなかったが、二人にははっきりと亀裂が備わっていた。二人は並んで人形のように横たわっている。陰毛がなく、すべすべの白い性器がふっくらと盛り上がっている。
 真理子の脚を開くと内部が割れ、蜂蜜のような液体がとろりと流れ出た。脚は冷たい。が、生きているのはわかっている。
 続いて細谷の脚も開く。真理子より大量の液が洩れてきた。私はたまらず細谷ににじり寄って差し込んだ。
(ああ!)
確かな挿入感。彼女が目を見開いたのとほぼ同時に射精が起こった。
 目覚めると痙攣の中でペニスが跳ねていた。快感と放心が彷徨うようにめぐっていた。

 大野は自慰をしないで夢精を『スル』のだという。夢精は自分の意思で行うことはできない。
「それは、今日の今日ってわけにはいかないけどさ」
禁欲してイメージを膨らませて気持ちを高めると、だいたい『その日』がわかるという。
 中学の頃は三日にあげず自慰をしていたが、高校の時に夢精を体験して、あまりの快感にしばらく陶然とした。体の奥底から突き上げてくるとてつもない心地よさが忘れられなくなった。
「オナニーなんて比較にならないからな」
そのために常にエロ本を読んだり、ヌード写真を見たりして刺激を与え、ペニスには出来るだけ触れずに昂ぶりを圧縮しておく。そしていよいよ限界を感じてくると、
「銭湯にいくんだ」
それは湯上りの女の子の『匂い』を嗅ぐためである。
 風呂から出たら銭湯の近くで待っていて、出てきた女の子とすれ違うのだという。
「石鹸の香りと一緒になって、いい肌の匂いなんだ。髪の匂いもいい。吸い込むとくらくらしちゃうよ」
大野はうっとりと焦点のない虚ろな目を見せて言った。
「君もやってみろ。いいぞ」
そして寝る前に小さめのブリーフを穿いて締め付け気味にすると効果があるという。今では十日に一度くらいの頻度で夢精を予期できると言った。
「射精の瞬間、目が覚めた時の気持ちいいこと」
ブリーフに圧迫されたペニスが叫んでいるようだ。
 たしかに夢心地に漂う陶酔感は理解できる。だがそこまでのめり込むと何かが屈折しているようにも思える。
「誰か好きな子はいないのか?」
「いるよ。そのために頭に詰め込んであるんだ」
夢で逢うのだと大野は本気で言うのだった。


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