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『正夢』
【青春 恋愛小説】

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正夢〜仲間〜-4

廊下に出て帰ろうとした時だった。
「高槻、翔さん…すよね?」
後ろから声をかけられて立ち止まる。
「あと、となりの人は確か高山、渉さん…」
振り返ってみると、そこには見慣れない男が立っていた。黒髪に赤いメッシュ…。上履きの色がこいつが一年生だと告げていた。

「後輩か?」
渉が疑問を口にする。渉が知らないってことは、俺も知らないのだから知り合いという訳ではない。その時、男が口を開いた。

「俺、鹿見…鹿見 護《しかみ まもる》って言います。」
「一体何の用だ?」
なんとなく面倒事になりそうな気がするが、とりあえず聞いておくのが礼儀と言うものだろう。

「いやぁ、あんた方二人は俺の中学でも有名だったんすよ。喧嘩の強さでね」
「俺達は別に喧嘩するわけじゃねえ、向こうが売るから仕方なく買ってるだけだ」
「それ喧嘩って言うんじゃん」
渉に一言トゲを刺されるが、今は気にしない。
「腕試し、ってやつっすよ。相手になってくれませんか?俺はどちらからでもいいんすけど。二人同時でもね…」
鹿見の言葉が気に食わなかったのだろう。渉の雰囲気が変わる。
「渉」
「あ?」
鞄から、財布を取り出して千円札を渡す。
「先行って買い物済ませといてくれ」
「おまえ、こいつは俺が…」
「いいから先行け。怒られんだろうが」
「…わかったよ」
渉は千円を受けとると、そのまま昇降口へと向かっていった。物分かりがよくて助かる。
「いいんすか?行かせちゃって。ふたりでもよかったんすよ?」
鞄を置いて、周りを見る。幸い、もうみんな帰っているので、そう邪魔は入らないだろう。
「…なぁ、なんでお前喧嘩なんかしてんだ?もっと楽しいことあんだろうが」
「だから言ったっすよね?腕試しだって。俺は、自分がどれくらいか試したいだけなんすよ」
「ゴロ巻き(喧嘩)でか?」
す、と鹿見が腕を上げる。
「…もういいじゃないすか。いきますよ」

瞬間、拳が目の前に飛んでくる。
(速い!)
後ろに軽く跳び、拳を避わす。鹿見は後ろ足を上げるのが見えた。喧嘩の最中に上段蹴りを放つやつはそうはいない。よほど自分の蹴りに自信があるか、なにか格闘技をやっていたかのどちらかだ。

とっさに両腕を構えてガードする。スピードが遅いやつなら、蹴り足を取ることも可能だが、それは無理だった。横から来る鈍い衝撃が体を押す。ガードを解くと、鹿見はもう元の構えに戻っていた。
「凄いっすね。大体のやつは今ので決まるんだけどな」
構え、蹴りの速さ、重さ…。
「空手か…」
「よく分かったっすね。まぁ俺のはあんな堅っ苦しいものじゃないっすけど」

腕の痺れが取れない、あと何発耐えられるか…。
鹿見の顔が迫る。フック気味のパンチが飛ぶ。こっちも踏み込む。顔がぶつかりそうなほどに近付く。この超近距離だと振り抜くようなパンチは打つことが出来ない。
右拳を落とし、二の腕に力を込める。この距離なら俺の拳を避ける術はない。
下から拳を突き上げる。《アッパー》というやつだ。拳が鹿見の顎に刺さる。…はずだったが。
「あまいっすよ!」
避けた拳が奥襟を掴んでいたのだ。そのまま引き離される。
当たるはずだった拳は、鹿見の顔の横を通りすぎた。
突如、奥襟の違和感が無くなる。奥襟の手を離されると同時に、拳が向かってくる、避けることは出来ないだろう。歯を食いしばり、覚悟する。
右頬に拳が当たる。口の中が熱い。切れたのだろう、だが今はそんなこと気にならない。
「終わりっすよ!」体勢が整う前に上段蹴りが飛んでくる。まともに食らえば失神は免れないだろう。足が目の前に迫る。


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