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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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なんか、ヘンですよ?-8

すると、あたしの腕を掴んでいた手がフッと離れた。


恐る恐る目を開けて掴まれていた手の方を見ると、視界の端に黒いエプロンが目に映る。


そのエプロンの主が、おじさんの手を引き離してくれたと気付いた瞬間、胸がキュッと締め付けられた。


胸元に留められたネームプレートの名前を見た瞬間、安堵なのかポロッと涙が一つだけこぼれ落ちた。


「お客様、私どものスタッフがご迷惑をおかけして申し訳ありません。ここからは私が対応させていただきます」


言い方はおじさんに対して下手に出てるけど、あたしの腕をグイッと引いて自分の身体の後ろに隠す様子は、まるであたしを守ってくれているかのようだ。


「す、駿河……」


駿河は掴んでいた手をキュッと一度だけ強く握り返してからそっと手を離しておじさんに頭を下げる。


「あ、いや……オレはこのお姉ちゃんにアイスコーヒーのお代わりをお願いしただけでな」


「申し訳ありません。当店はセルフサービスとなっておりますので、こちらでご注文はお伺いできかねます。そのようにスタッフに教育しておりますので、こちらの古川もそのような対応を取らせて頂いたはずですが」


「……なんだ、お前もケチくせえ男だな。いいじゃねえか、オレぁ足が痛くて動けねえんだぞ? それくらいのサービスすらできねえのか?」


お酒を飲んでいるせいか、やけに尊大な態度でおじさんは駿河を睨み付けるけど、駿河も一歩も退かない。


いつもの営業スマイルも、あたしに向ける仏頂面もそこにはなく、氷のような視線をおじさんに向けながらなおも駿河は口を開いた。


「確かに、身体の不自由なお客様や、トレイを持っての移動が困難なお客様については、お手伝いをさせて頂いております」


「だろ? だったらオレにも……」


「御言葉ですが、お酒に酔ってスタッフに絡むあなたが、レジに並ぶことが困難だとはとても思えないのですが」


かなり失礼なことをおじさんに言う駿河にハラハラしてしまう。


周りもすっかり張りつめた空間の中、固唾を飲んで二人のやり取りを見守っていた。


「ふざけんな、オレがいつそんな真似した!?」


おじさんはお冷やのグラスを持つと、ダンとテーブルに叩きつけた。


デカイ声に閉店間際の店内が水を打ったように静まり返る。


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