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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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なんか、ヘンですよ?-12

なのに、頭上からはフッと鼻で笑う声が。


驚いて顔を上げると、そこにはバカにしたみたいな笑みを見せるいつもの駿河がいた。


「……お前、知らねえだろ。あの店長、客ぶん殴ったことがあるんだぜ」


「え?」


いきなり店長の過去なんて話されて面食らったけれど、駿河はそんなあたしにお構い無く、締め作業をしている店長の後ろ姿を見てプッと噴き出した。


「店長の奥さん……その時はまだ単なる社員とアルバイトの関係だったらしいんだけど、やっぱり酔っぱらいに絡まれてたらしいんだ。最初は下手に出て迷惑行為を止めるようお願いしてたんだけど、その酔っぱらい、止めるどころか奥さんのケツを触ったんだと」


「ケ、ケツ!?」


「それで、店長がプッツンキレて酔っぱらいの顔をグーで殴った、と」


里穂ちゃんに締め作業を丁寧に教えている店長を見る。


ヒョロヒョロ細くておっとりしてて、あたしよりも非力そうなあの店長が人を殴るなんて……。


「店長、奥さんにまだ片想いしてた頃で『オレもまだ触ってねえのに何してくれとんじゃあ!』って、ものすごい剣幕だったらしいぜ」


クククと楽しそうに笑う駿河は、返却口いっぱいになったグラス達をまとめながら続けた。


「客を殴ったのが相当問題になったらしいけど、その時いたお客さんや他のスタッフが事情を説明して店長を庇ってくれたから厳重注意で済んだらしい。ちなみにその一件で奥さんへ気持ちが届いた、と。雨降って地固まるってヤツだな」


「あの店長にそんな過去が……」


店長の愛妻家ぶりはスウィングでも有名だ。


スマホの待受画面が奥さんとのツーショットで、周りからはキモイなんて言われてバカにされてる彼だけど、あたしは内心奥さんの愛されっぷりが羨ましく思う。


そんな店長のことだ、せっかくの花火大会も奥さんと一緒に行きたかったに違いない。


でも、自分の希望を抑えて仕事に徹するその姿勢はさすが店長だって思う。


ヘタレキャラで、アルバイト達からはからかわれたりなんてしょっちゅうで、威厳も何もあったもんじゃない彼は、アルバイトのみんなからもタメ口叩かれたりしてるけど、駿河だけは店長に絶対敬語を崩さないし、言われたことをちゃんと素直にこなす。


駿河が店長に対しての敬意を示しているのは、店長の真面目なところ、人の嫌がることも進んでやるところをちゃんと知っているからなのだろう。


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