投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

栗花晩景
【その他 官能小説】

栗花晩景の最初へ 栗花晩景 53 栗花晩景 55 栗花晩景の最後へ

春雷(1)-3

 来栖弥生と偶然出会ったのはそんな折り、練習中に歩いている彼女をたまたま追い抜いたのである。
 弥生は、今は解散状態になっている文化研究会の一員で、学園祭の時に焼き鳥を焼きながら話をしたことがある。
 私は少し先で停車させると彼女を待った。私の町とは隣接する市で、帰宅途中だと思われた。

 声をかけると怪訝な顔で車内を覗き込み、私だと判ると相好を崩した。愛想のいい娘である。
「どうしたの?」
「暇だから走ってるの。どこへ行くの?」
「家に帰るところ」
「送るよ」
弥生はすんなり乗り込んできた。

「免許持ってたんだっけ」
「先月取ったばかり」
「まだ新米ね」
「もうけっこう乗ってるんだぜ」
「乗らないとうまくならないもんね。あたしも夏に取ろうと思ってるの」
走り出すと弥生は道案内をはじめた。
「自分の車?」
「親のだよ。買えないよ」
「高いものね」

 弥生の家まではいくらもなかった。家の前に停車して、
「どう、少し近くをドライブしないか?久しぶりに会ったことだし」
「うん。行こう行こう」
開きかけたドアを勢いよく閉めた。

 車を走らせながら私は自分でも予期しなかった感情が沸き起こってくるのを感じていた。あまりに気安い彼女の反応によからぬ気持ちが芽生えたのである。
「今度、ドライブ行かないか?」
「いましてるじゃない」
けらけらと笑う。
「もっと長距離でさ」
弥生は驚きもせず、まんざらでもなさそうな笑顔を見せていた。
「でも、悪いんじゃない?晴香さんに」
「関係ないよ。最近、会ってないんだ」
「本当?」
教習所に通っていたことと学校の時期的なことも重なって二十日ほど会っていなかったのは事実だ。当然セックスもなかったわけで、欲求が溜まっていたことで弥生がその対象として忽然と浮かび上がったのだった。あわよくば……。
ついでにドライブの予行が出来たらこんなうまい話はないと都合のいいことを考えていた。

「一か月以上会ってないんだ……」
平気で嘘が口を出た。
「うまくいってないとか?」
「うん……まあ……」
「別れるの?」
「どうなるかな……」
言葉を濁しながら、弥生がその気になるのを期待していた。
「晴香さん、この車に乗ったことあるの?」
「いや、君が初めてのお客さん」
弥生は可笑しそうに笑って、少し考える間を置いた。

「晴香さんのことが何もなければいいわよ」
真顔で言った。そして、
「明日、空いてるけど……」
思わぬ早い展開に逆に返事に窮した。

 筑波山に行って道を確認しがてら、帰りにどこかのホテルに強引に乗り入れてしまおう。見た感じからするとけっこう遊んでいるようだ。そのままうまくいけばよし、拒否されたらそれまでだ。好きでもない女だから別に嫌われたってどうということはない。自分には晴香がいればそれでいい。……
 身勝手な理屈を並べながら私は弥生の肉体を想像していた。

 その晩、晴香から電話があってどきっとした。まさか弥生が何か言ったのかと思わず身構えたが、ドライブの日程のことだった。いつにするか早めに決めてほしいというのである。
「来週の日曜にしようか」と答えると、土曜日にしないかと言ってきた。
「土曜なら泊まれるわ……」
声をひそめて言った。
どうして泊まれるのか、理由は訊かなかった。
「わかった……そうしよう……」
私も声を落として答えた。二人の息遣いが交錯するような気がした。

 初めて晴香と一緒に夜を過ごす。朝まで二人きりなのだ。
(何をしようか……)
私にはセックスのことしかなかった。明日の弥生のことも含めて頭が女体でいっぱいになり、私は有頂天になっていた。


栗花晩景の最初へ 栗花晩景 53 栗花晩景 55 栗花晩景の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前