夢、破れたり-7
「それとも、もう先約済みとか?」
駿河はそう言って、あたしの手首を掴んだ手にさらに力を込めた。
まるで「逃がさねえよ」とでも言ってるみたいに。
そんな骨ばった綺麗な手を見てると、ゴクリと喉がなってしまう。
大きくて、ゴツゴツしてて、女の子とは違った手。
この手を繋いで街を歩けたら……。
あたしはしばしの沈黙の後、ゆっくり顔を上げ駿河を見た。
シャープな顎に薄い唇の大きな口。少し高い形のいい鼻。そして少し垂れた大きな瞳に吊りあがった眉。
コイツがあたしの彼氏だったら、友達にめちゃくちゃ自慢しちゃいそう。
普段は喧嘩ばかりの二人だけど、こうやって突然恋に発展……なんて、一昔前のトレンディードラマみたいだけど、こういうのも悪くない。
やけに神妙な顔をしてあたしの言葉を待つ駿河に向かって、あたしはゆっくり唇を開いた。
「ううん、空いてるよ」
はにかみながらそう言うと、駿河は少し顔を赤くして、手首を掴んでいた手を上にずらして、あたしの手をギュッと握ってきた。
駿河の手は、いつの間にかしっとり汗ばんでいて、もしかして緊張してたのかななんてふと思った。
見つめ合っていたあたし達は、少し照れたように笑い合う。
そして、駿河は首の辺りをガシガシ掻きながら
「じゃあ、花火大会の日は3クロで頼むな!!」
と白い歯を見せた。
目を点にしたまま固まるあたし。
え、さ、3クロって……!?
咄嗟に駿河の口から出てきたバイト用語に、頭がついていけなかった。
あ、ちなみに3クロってのは3時クローズの略。
すなわち、午後3時から午後11時半までのクローズまでのシフトのこと。休憩は45分割り当てで、前半30分、後半15分取れ……って今はそんなのどうでもいい!
「ちょ、ちょっと! もうシフト出てるはずでしょ! 大体なんであたしが日曜に入らなきゃいけないのよ!」
「確かにメンバーは決まってたんだけどさ。他店でどうしても人が足りないからって応援要請が来ちまって、急遽沼津さんが応援いくことになったんだ。だからクローズのメンバーが足りなくてさ。
な、古川、お前しかいねえんだ、頼むよ!」
駿河はさっきの熱っぽい眼差しから一転、両手を合わせてあたしに必死に頭を下げ始めた。