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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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夢、破れたり-8

「や、やだ! あたし、花火大会行くの!!」


「空いてるってたった今言ったじゃん」


「それは、あんたが花火大会に誘ってくれたかと勘違いしたから……。とにかくあたしは無理! 他あたってよ!」


「他はみんな彼氏とか彼女とかと花火大会に行くだろうが。消去法で言ったらお前しか残んねえんだって」


「やだあ! あ、そうだ、じゃあ里穂ちゃんに頼みなよ!!」


名案が浮かんだあたしは、ポンと胸の前で手を叩いた。


そうだよ、里穂ちゃんならあたしより仕事もできるし、何より駿河の頼みなら絶対聞くはずだから。


それなのに、駿河はしつこく食い下がってくる。


「松本は元々固定で入ってるんだよ。だからお前だけが頼みなんだよ! な、今度メシ奢ってやるから」


「やだあー! あたしは花火が見たいの! 絶対いやー!」


でも、しつこさならあたしだって負けてない。


駄々っ子のように首をブンブン横に振りながら、手首を掴んでる駿河の手を振りほどこうと暴れていると、突然駿河が苦しそうに眉根をひそめ、さっき負った傷の辺りを押さえた。


「うっ……!」


ギリッと奥歯を噛み締めて、大きな身体を縮こますその様子に焦るあたし。


「ちょっと、大丈夫!?」


「くそっ、さっき打ったとこ、ヤベえかも……」


「ええっ!!」


見れば、苦しそうな顔してギュッと目を閉じて、はあはあ息を荒げる駿河。


もし、骨が折れてたりしたら……?


途端にサーッと血の気が引いていく。


「す、駿河……、ごめん、あたしのせいで……!」


「だ、大丈夫だから気にすんな……」


そう言って無理矢理作る笑顔が痛々しくて、ますます罪悪感が募ってくる。


オロオロしっぱなしのあたしを尻目に、駿河はうめき声を堪えながらなんとか口を開いた。


「でもこれじゃ、バイトはちょっとキツいかも」


珍しく弱気になってる駿河の様子。これはいよいよ緊急事態かもしれない。


「駿河……、あたしのせいでケガしちゃったんだし、あたしにできることなら何でもするよ!」


込み上げてくる涙を堪えるように、あたしはクッと喉を鳴らして、駿河のケガをしてない方の手をそっと両手で包んだ。



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