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今日もどこかで蝶は羽ばたく
【ファンタジー 官能小説】

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おまけ2 フェアトレード・エモーション*性描写-5


 翌日。
 ルビーは淡いピンクのドレスを着て、屋敷の玄関ホールでガチガチに緊張していた。
 愛妾に囲う獣人を着飾らせる貴族も多いので、「ファルファラ」は獣人用のドレスも多数揃えている。
 普段着に茶会用、昼餐用に晩餐用、豪華な夜会まで、ルビーに届けられた衣装箱の中に一そろい入っていた。
 といっても、ルビーはこういう時にはどんなドレスを着るかなど、まったくわからない。
 タバサに選んで着せてもらい、髪にもリボンをつけ、完璧に身支度を整えられた。
 隣りにはメルヴィンがちゃんといるし、後ろにはタバサもいてくれるのだけど、緊張で心臓が口から出てしまいそうだ。

 セオドア・イグレシアス伯爵は、メルヴィンより十歳も年長。そして現実と理想をしっかり見極めた優秀な統治者だそうだ。先代もそれを信頼しているから、自分が元気なうちからさっさと息子に家を任せ、愛妻と楽隠居しているという。
 どちらかと言えばフランシスカよりメルヴィンに似ていて、また彼は、どんな嘘も瞬時に見抜いてしまう特技を持っているとも聞く。
 嘘をつく気なんか元からないが、ルビーの頭の中には、メルヴィンそっくりの伯爵が、ド迫力な厳しい顔で厳しい審査眼を光らせているイメージが渦巻く。
 緊張のあまり喉はカラカラで、何度も練習した挨拶も忘れてしまいそうだ。
 すっかり見慣れたダークブラウンの扉や床の絨毯まで、なんだか見知らぬものに見えてくる。

 ああ、いっそいますぐ小間使いの服に着替えて、ここを掃除でもしてしたい!

 冷や汗を浮かべながらそんな事を考えていると、ふいに扉が開いた。
 うやうやしく扉を開いたのはウォーレンで、その後ろには上等な背広を着た……


 にこやかなオジサンがいた。


 メルヴィンとほぼ同じくらいの身長で、髪色と眼の色も同じだし、よくみれば顔立ちも、確かに似ていなくは無い。
 しかし幅広のがっしりした体格と、頬まで覆う砂色の濃い髭、なにより人当たりの良さそうなニコニコ笑顔で、こうまで印象が違うものなのだろうか。
 動物のイメージでたとえるなら、メルヴィンは剽悍な狼で、伯爵はにこやかなクマさんだ。

「君がルビーか!」

「は、はい。はじめまして、伯爵さま」

 親しげに手をとられ、緊張があっという間に解けていく。

「会えて嬉しいよ。皆から君の事は色々聞いているが、どうしても直接聞きたくてね」

 濃く太い砂色の眉の下で、藍色の瞳がルビーをまっすぐ見ていた。

「メルヴィンのことが好きかな?」



「はい!世界で一番大好きです!」


 スルンと、自然に本心を表せた。
 伯爵は嘘を見抜く……というより、この人の前では無意識に警戒心を解いてしまうというのが正解なのだろう。
 三人目に出会ったイグレシアス家の人間に、ルビーのすんなりした尻尾がフリフリと好意を示している。

 そして隣りにいるメルヴィンは、少し顔を赤くして眉を潜めただけで、特に何も言わなかった。

 だからその場にいた者の中で、ルビーの即答に彼が悶絶しそうなほど喜んでいると気付けなかったのは、修行の足りないルビー本人だけだった。


 終


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