おまけ2 フェアトレード・エモーション*性描写-2
しかしルビーがそんなにうろたえていようとも、やがて陽は沈み、夜はやってくる。
念入りに身体を洗い寝台に入った途端、待ちかねていたようにメルヴィンに口づけられ、衣服を脱がされた。それでも性急な行為はルビーに嫌悪も恐怖も与えず、逆に自分も飢えていた事に気付かされる。
いっぱい抱き締められ、抱き締めて、繋がりたいと、夢中ですがりついてしまう。
「んみゃっ」
獣耳を甘噛みされ、ルビーは小さな声をあげて身をよじった。
「浮かない顔をして、どうした?」
情欲にかすれ始めた男の低音が囁く。
「みゃぁっ、あ、何も……」
慌てて言葉を濁したが、メルヴィンは誤魔化されてくれなかった。
「当ててみようか。明日のことを考えていたんだろう」
熱い吐息に耳をくすぐられ、首をすくめる。
メルヴィンの勘が鋭くなくたって、ちょっと考えればわかる予測だ。
大きな手が顎に添えられ、覆い被さるように口付けられた。薄い唇が押し当てられ、角度を変える。差し出された舌がルビーの唇をこじ開け、口内に侵入する。ルビーの小さな舌を捉え、絡み吸い上げては妖しく蠢く。
「……ふ、ぅ……っ」
何度も角度を変えるたび、自然と鼻に抜けるような声がルビーから漏れる。
歯列をなぞり、頬の内側や上顎の粘膜まで、あますところなく味わいながら、メルヴィンの口付けが深さを増していく。
ルビーはメルヴィンの広い背中に手を回して、必死でしがみついた。手触りの良い夜着をにぎりしめ、下腹部から沸き起こるゾクゾクした感覚をやり過ごそうとする。はふはふと短い息継ぎを繰り返し、しだいに頭の芯が痺れていく。
ふいに唇が離れた。
「みゃ……?」
後頭部と腰をしっかり手で支えられ、密着したままの姿勢で、メルヴィンは薄っすら涙の膜が張ったルビーの瞳を覗き込む。
「セオドア兄上も、獣人を蔑んだりはしない」
「はい……」
幼子に真剣に言い聞かせるようなメルヴィンに、コクンと頷いた。
イグレシアスの一族が獣人を蔑まないのは、メルヴィンやフランシスカが既に照明している。
それでも正式な婚約者として、まだ見ぬメルヴィンの家族に会うのだと思うと、不安がこみ上げてくるのだ。
獣人でなく人間同士でも、家族から結婚を反対されるなどよくある話だ。
ルビーを妻にすることに反対され、メルヴィンが家族と上手くいかなくなってしまったらと思うと、たまらなくなる。
「……もし、メルヴィンさまがこの先、ご家族か私のどちらかを選ばなくてはいけなくなったら、ご家族の方を選んで欲しい……昨日まではそう思っていました」
ぎゅっと目を瞑り、震える小声で胸のつっかえを白状する。
「でも、今はもうその気持ちが揺らいで……毎日メルヴィンさまをもっと好きになって、きっと明日には私の方を選んで欲しいって思ってしまいそう。それが怖いんです」