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栗花晩景
【その他 官能小説】

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芽吹き編(2)-3

 差し当たって各クラブからプログラムに載せる原稿を集めるのが私の役目になった。早めに集めないと必ず訂正があって後で慌てることになると細谷に言われていたので、十月に入るとすぐに各部室を回り始めた。締め切りは九月いっぱいになっている。

 二度足のこともあったがほとんどの部は原稿が用意されていて、三日目にはブラスバンド部を残すだけとなった。曲の仕上がりによって変更が多く、いつも一番遅いのだと聞いていた。
  
 たまたま小暮とその話をしていると、部室に一緒に行きたいと言い出した。大村真理子を近くで見たいのだという。ラブレターの返事は結局来なかったようだが、彼の想いは募るばかりに見える。
「行っていいかな」
別に構わないので承知すると恥ずかしそうに相好を崩した。

 放課後、大きな体の小暮はやや前屈みで私の後についてきた。
ブラスバンドの部室は校舎と別棟の音楽室にある。 
 練習前の慌ただしい時間で、下級生が譜面台や楽器を持って出入りしていた。古賀の姿を見つけて要件を伝えると間もなく上級生が折り畳んだレポート用紙を持って現れた。
「去年、曲が違っていたから気をつけるように言っておいてくれ」
そして私の後ろにいる小暮に視線を向けた。
「大きいな。一年か?」
「はい……」
「どこかクラブ入ってる?」
「いえ……」
「チューバやってみないか?一人足りないんだ」
小暮は苦笑いを見せて私に向かって首を傾げてみせた。音階練習のけたたましい音が鳴り響いてきた。
「気が向いたら見学に来いよ。いつでもいいから」
上級生はそう言い残して音楽室に入っていった。
「大村、いたか?」
「わからなかった……」
小暮は気の抜けた返事をした。


 原稿が揃ったところで二回目の委員会が開かれ、すでに多くの事が進行してほぼまとまった状態にまでなっていた。
 壁に貼られた模造紙には校舎の見取り図が描かれてあり、茶道部だとか書道部などすべてのクラブ名が書き込まれてある。配られた用紙には予算や購入品のリストも出来上がっていて、あとは学校に提出するばかりになっていた。
「誰かに訊かれても答えられるように君も憶えておいてね」
自分は使い走りしかしなかったのに、みんなの手際のよさに感心したものだ。
「他のことはだいたい毎年同じだからそれほど苦労はないけど、プログラムは結構厄介なのよ。長すぎたらカットして了解とらなきゃならないしね」
忙しくなると言いながら細谷は楽しそうだった。

 委員会は確認だけで早く終わり、細谷と帰るのを避けるため、私は友達が待っていると嘘を言って先に部室を出た。彼女を嫌っていたわけではないが、何となく気圧される感じがあって落ち着かなかったのだ。

 部室のある別棟からは人声が聞こえていたが校内はひっそりとしていた。外はすでに薄暗く、秋の夕暮れが沈んでいる。
 出口に向かい、足を止めた。明かりの消えた教室から物音がしたからである。気配をうかがうと誰かがいる。クラブの連中が何か取りに戻ることは珍しいことではない。そのまま行き過ぎようと思っていると足音が扉に近づいてきて動けなくなった。
 引き戸が静かに開けられ、互いに至近で目を合わせた。驚いたのは予期していなかった相手の方である。
「おお!」
声を上げて身を引いたのは小暮だった。とっさに手にしていた物を後ろ手に隠した。

「まだいたのか」
「ああ、ちょっと……」
小暮は明らかに狼狽を見せて視線を落とした。そこは私たちの教室ではない。
(真理子のクラス……)
閃いて、彼が手にしている物の見当がついた。
「大村真理子だな」
笑い混じりに言ったのは小暮の立場を救うためである。居たたまれない思いであったろう。
 小暮は一瞬身構えたものの、観念したように照れ笑いを浮かべてあっさり白状した。
「見られちゃったか……」
隠したものは体操着の下穿きである。
「大村のか?」
「うん……」
小暮はばつが悪そうに頷き、
「黙っててくれよ」と弱々しく言った。
「言わないよ、誰にも」
「たのむよ……」

 私は彼の行為を非難するつもりはなかったし、異常だとも思わなかった。私も三原恵子の体操着を本気で欲しいと思ったことがある。中学にはロッカーがなく、毎日持ち帰っていたから機会がなかっただけのことだ。上履きのにおいはそっと嗅いだことがある。突き上げてくる性欲の発露が時に突風のように吹きあがってどうしようもないことがあるものだ。

「別に変なことじゃないよ」
小暮は握りしめた下穿きをじっと見つめている。
「におい、嗅いだか?」
茶化して言ってから、
「でも、それ持ってったら、大村は困るぞ」
小暮ははっとして顔を上げた。
「無かったら困るだろう。かわいそうだよ」
小暮は下穿きと私に交互に目をやりながら、
「そうだな……困るよな……」
力なく呟くのを聞きながら、私はあることを思いついた。

「来いよ」
教室に入って扉を閉めた。
「出しちゃおうぜ」
「出す?」
ロッカーの前に行くとカバンを置き、ズボンのチャックを下した。欲情していた。体操着のことを考えているうちに昂奮が沸き立ってしまったのだった。
 私は目に入った『北川』という名前のロッカーを開けて下穿きを取り出した。どんな女生徒なのか知らない。だれでもよかった。飛びだしたペニスをそれで被うと強く握って擦った。振り向くと小暮も同じ格好をしている。
「真理子……」
小暮はあっという間に唸って上体を前屈させた。私も呆気なく放った。

「真理子がこれを穿くんだな」
声が上ずっている。
「アソコにぴったりくっつくぞ」
「気付かないよな」
「乾いちゃうからな」
「真理子……」
小暮の声はうわ言のように聞こえた。
 小暮がブラスバンドに入部したのは翌日のことである。


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