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栗花晩景
【その他 官能小説】

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芽吹き編(2)-2

 土曜日の放課後、さっそく委員会が開かれた。担任の話では一年生から数名選ぶということだったが、出席してみると一年は私一人で、あとは三年が二人、二年が三人の上級生ばかりである。実は漠然と、大勢の中で適当に手伝っていればいいと考えていたので急に気が重くなってしまった。

 委員長は三年の男子で、理知的な風貌を持ち、いかにも先頭に立ちそうなてきぱきした話しぶりである。
「委員長の石井です。磯崎くん、一年は君一人だけど頑張って」
私が立ち上がって頭を下げると、
「彼女が副委員長の細谷さん。そしてーー」
石井は二年生の男子と女子を紹介した。

 自己紹介が私に対してだけだったのは二、三年は互いに知っているということだろう。おそらく昨年も委員だったような親しい雰囲気である。

「さっそくだけど」
石井は全体を見回して本題に入っていった。展示室の割り振り、プログラムの原稿のこと、各クラブの要望など、検討すべき事案を一つ一つ並べてそれぞれの担当者に指示していった。要領のわからない一年の私が率先してできることはない。やはり言われるままに動いていればいいのだと少しほっとした。

 細谷は大柄で太った女である。制服がはちきれそうで、ブラウスの胸元は大きく盛り上がり、圧倒的な大人の落ち着きに包まれていた。とても自分と二つ違いとは思えなかった。目がくりくりとしていて色白の顔に太い眉毛が目立っていた。

 これからの予定と各自の役割を確認して委員会は一時間ほどで終わった。私はプログラムの担当になり、細谷を補助することになった。
 先輩ばかりでどうにも居心地がよくない。後片付けを済ませると早々に退散した。

 靴を履き替えているところへ細谷がにこにこ笑いながら表からやってきた。三年の下駄箱は一年とは別の所にある。わざわざ回ってきたようだ。
「磯崎くんだっけ。わからないことがあったら何でも訊いてね。別に大変なことはないから。一緒に頑張ろうね」
私はペコペコ頭を下げるしかない。
「一年生、可愛いね。初々しくて」
じっと見つめながら可笑しそうに笑う。
「君、家はどこ?」
私が答えると、
「じゃ、途中まで一緒の電車ね」
その一言で彼女と帰ることになってしまった。何とも気詰まりな同行であった。

 駅までの道すがら、細谷は一方的に喋った。初めは文化祭のことだったが、そのうち大学の話やS高に入った理由など、私には興味のないことばかり話し続けた。
 駅前の菓子店で足を止めた細谷は私の顔を覗き込んだ。
「磯崎くん、牛乳飲まない?おごってあげる」
突拍子もなくて遠慮する間もない。
「待ってて」
私の返事も聞かずに店に入って瓶入りの牛乳をに二本手にしてきた。
「取って取って、危険!」
細谷が小走りになったのはカバンを指に引っかけていたので落としそうになったからだ。

 私たちはカバンを地べたに置くと店先で牛乳を飲んだ。喉を鳴らして飲んでいると細谷が見つめているのがわかった。半分ほどで息をついた。
「牛乳は元気の素」
彼女は顎を上げて豪快に飲み干した。
 私は笑い出したいのを堪えながら横目でその様子をうかがっていた。女子高生が路上で牛乳を一気に飲んでいる光景がなんだかとてもおかしかったのである。

 電車に乗ってからも彼女は饒舌だった。声が聞き取りにくい車内で、しばしば耳を傾けて聞き直さなければならなかった。そうすると細谷の顔が近寄ってきて微かに口臭が漂った。
 ようやく解放されてホームに降り立つと肩が凝っていた。


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