帝都の鬼畜門番長-1
それは帝都外へ出かけた第五遊撃隊が、時間内に帰還できた夕方の事だった。
「?」
一瞬、自分の目がどうかしたのかと思い、メルヴィンは瞬きをする。
しかし帝都の門にかけられているピンクのそれは、やっぱり眼の錯覚ではなかった。
「サイラス、なんだあれ?」
騎馬から降り、詰め所で書類チェックをしている同級の門番長へ話しかけた。
「新しい枷ですよ」
眼鏡を押し上げ、サイラスは事もなげに答える。
「残念ながら先日の会議で、タグの義務に関する帝都条例は、そのまま据え置きになりましたからね」
「いや、しかし……」
「以前の枷では、獣人の身体をむやみに痛めると技術部に掛け合い、この形を考案しました。何か文句が?」
新しい枷を、サイラスが手にとって見せる。
左右の手首をそれぞれ止める二つの輪があり、その間は頑丈そうな鎖で繋がれている。
確かに、以前の不自然に身体を拘束する枷よりも、よほど苦痛がないだろう。
だが……なぜ、可愛いピンクに塗られ、ガラス玉の飾りがついているのだろう?
ついでに輪の内側を良く見れば、『ファルファラ』のマークまで小さく描かれているような気が……
「ちなみにデザインは、貴方の姉上にお頼みしました」
「やっぱり……!だが、なんでこんなんになったんだ?形はいいとしても……」
サイラスが眼鏡の奥でニンマリ目を細め、くくくっと喉を鳴らして笑う。
「先日、タグを嫌がった狼獣人の青年に試してみたら、大成功でした」
「は?」
ルビーのように、タグと無縁だった獣人が捕獲され帝都に来ると、やはりタグを嫌がる。
それでも以前の枷を付ければ、数時間で苦痛に耐えかねタグにしてくれと言い出すのだが……。
「この恥ずかしい枷をさっさと外して、すぐタグをつけてくれと泣いてましたよ」
「……鬼」
そう呟いたのはメルヴィンではなく、後ろで青ざめた第五遊撃隊員たちだ。
サイラスの鬼畜部分くらい、メルヴィンはもうとっくに知っている。
「女の子は逆に、これを作った店のタグなら欲しいと喜びますがね」
涼しい顔でサイラスは枷を棚に戻す。
「……まぁ、本当はあんな条例がなくなるのが一番ですが、三年後にもう一勝負ですね」
小声の呟きは、メルヴィンにしか聞えなかっただろう。
終