投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

今日もどこかで蝶は羽ばたく
【ファンタジー 官能小説】

今日もどこかで蝶は羽ばたくの最初へ 今日もどこかで蝶は羽ばたく 53 今日もどこかで蝶は羽ばたく 55 今日もどこかで蝶は羽ばたくの最後へ

溺れるジェノサイダー*性描写-1


 この二ヶ月、メルヴィンや兄たちは多忙を極めていた。
 もちろんそれは、帝国会議で獣人への条例を認めさせる根回しのためだ。

 帝国を蝕む貧富の差と犯罪率の増加は、この十数年でもはや無視できない大きな問題になっていた。
 他国へ攻め込み領土を広げているうちは、いくら獣人を酷使しようと構わなかった。
 兵士という職業の需要と、戦場という消耗地があり、他国の富を奪いそれで国を潤せたからだ。

 しかし帝国はすでに、大陸の富裕な国をあらかた取り込んでしまった。
 自国の領土にしてしまえば、破壊した土地を修復するのも帝国の仕事だ。戦場で父親を失った家族や、職をなくした兵たちも帝国民になる。

 喰らうもののなくなった巨人は、自らの内部を食い始めるしかなかった。
 一部の特権階級は獣人の酷使によってさらに富み、帝国の貧しい人間たちが食い物にされていく。
 そして彼らも、荒野の山賊や都市の犯罪組織となり各地を荒らしまわる。

 それでも、特権階級の大部分にとっては、まだ他人事だ。自らの不利益になる条例など、認めるものは殆どいない。
 それを可能にしたのは、皮肉にもグレン達の犯罪だ。

 あの麻薬と人身の売買には、帝国の大貴族が幾人も関わっていた。そして人間を信用していなかったグレンは、彼らと詳細な契約書を交わし、船に隠していたのだ。
 隊長が見つけた時、契約書の半分近くは塩水に濡れ判読不可能になっていたが、関わっている者の名前は一通り把握できた。

 そこで貴族たちの犯罪証拠を集め、公にしない代わりに、条例へ賛成票を入れるよう交渉した。
 汚い手段には違いないが、人間をたやすく動かせるのは、形のない善意より、あけすけな利益と保身なのだ。
 引き換えにに人身売買未遂事件自体が握りつぶされたので、船にいた少女たちの家族も罪には問われなかった。
 それが良い事か悪いことか、一概には言えないが……。

 世界は残酷で厳しく、いつでも誰かが生贄になる。
 だからトレイシー・イグレシアスの子孫たちは、新たな生贄を選んだ。

 理不尽な富を抱え込んだ者を祭壇に捧げ、少しばかり損をさせる。それにより何万という獣人と、貧しい人間が助かるのだ。
 あの条例の制定は、間違いなく大きな一歩だ。

 獣人の完全開放という遠い道のりへ、帝国の巨人はようやく進路を変え歩み始めた。




今日もどこかで蝶は羽ばたくの最初へ 今日もどこかで蝶は羽ばたく 53 今日もどこかで蝶は羽ばたく 55 今日もどこかで蝶は羽ばたくの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前