投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

今日もどこかで蝶は羽ばたく
【ファンタジー 官能小説】

今日もどこかで蝶は羽ばたくの最初へ 今日もどこかで蝶は羽ばたく 52 今日もどこかで蝶は羽ばたく 54 今日もどこかで蝶は羽ばたくの最後へ

恋するビースト-4

手を伸ばし、机からチケットの封筒を取り上げた。
 溜め息をつくメルヴィンに、封筒を突き出す。

「このチケット、誰か買ってくれる人を知りませんか!?」

「……は?」

「だって、勿体無いです!」

 唖然とするメルヴィンに詰め寄った。

「ウォーレンさんから教えてもらいました。人間社会では、良い事をしたいって言うだけじゃ、なかなか助けて貰えない。誰かを助けたいと思っても、何をするにもお金がかかるって」

「ま、まぁ、そうだな……」

「私には必要なくなったんですから、お金に変えて、メルヴィンさまが、獣人をもっと助けるのに使ってください!」


 夢中で訴えたら、困りきった顔のメルヴィンに、ちょっと落ち着けと頭をポンポンされた。

「あー、それはつまり、俺のプロポーズを受けてくれるということで、いいんだな?」

「ぷろ……」

 改めてそうはっきり言われ、顔が真っ赤になっていく。
 チケットの封筒をを急いで机に戻し、コクコク頷いた。
 不機嫌な表情のメルヴィンに、ぎろりと睨まれる。

「まったく、何を言い出すかと思えば……」

「うぅ……すみません……」

「安心しろ、今ならまだ全額払い戻しができる」

 払い戻しというシステムを初めて知り、ホッとしたのと申し訳ない気持ちでごちゃ混ぜになる。

 落ち着いて考えれば、いくらなんでも自分の素っ頓狂な返事は酷すぎた。
 なんとか回復できないかと思い、おずおずとメルヴィンをみあげると、大きな腕に抱きすくめられた。

「言っておくが、もう気が変わったは無しだぞ」

 拗ねたような口調で告げられる。

「はい……」

「婆さんの遺言に逆らわせて、悪かったな」

 心配そうな声に、ふわりと口元が緩んだ。

「いいえ。婆さまの遺言は、必ずしもビースト・エデンに行く事じゃなくて……私が幸せになることでした」

 きっと婆さまは、獣人が自由に暮らせ、身分に邪魔されず愛を育める地として、あの場所を示したのだろう。
 でも、ルビーが愛する相手はここにいて、たとえ身分や種族の違いに邪魔をされても、一緒にいたいと願ってしまった。

 獣人にとって、赤の大陸は牢獄も同然。
 けれどルビーにとっての楽園は、メルヴィンの隣りだ。

「私はメルヴィンさまのそばに居たい……」

 次の瞬間、息もできないほど抱き締められ、唇がかさなった。

「――ちょっと待ってくれ」

 唇を離し、メルヴィンが囁く。
 魔晶石ブーツではなく普通の靴なのに、凄まじい速さですっ飛んでいき、勢いよく扉を開いた。

「やっぱり……!!」

 あわてて扉から飛びのき後ろを向いたウォーレンとタバサに、メルヴィンはこめかみを引きつらせた。
 カモフラージュにほうきとハタキなんぞ持っているが、過保護な二人が盗み聞きしていたのは、一目瞭然だ。

「気配は消したはずでしたが……あいかわらず勘がお鋭い」

 ウォーレンが気まずそうに咳払いをする。

「行動パターンを読んだだけだ!」

「ホホホ。まぁ、良かったではありませんの。さっそく祝い菓子を焼いて近所にお配りし……」

「頼むからやめてくれ!」

 ニヤニヤしている二人を廊下から追い払い、メルヴィンは急いで扉をしめる。ついでにしっかり鍵までかけた。
 立ち尽くしていたルビーを、軽々と横抱きに抱えあげる。

「あいかわらず軽いな」

 ベッドに押し倒され、真っ赤だった顔がさらに熱くなる。

「ちょ……い、いますぐ、ですか……?」

「半年以上もお預けくらったのに、まだ待たせる気か?」

 初日の夜に抱かなかったのを、何度も後悔したと、告白された。
 その合間にもついばむような口づけを何度もかわし、ボタンが一つづつ外ざれていく。
 首筋に唇が落ち、そのまま鎖骨に移動し、わずかな膨らみの胸元へ滑っていく。
 殆どもう目立たないが、白い獣の歯型がそこにも残っていた。

 まだ昼間で室内は明るい。
 ルビーが自ら慰み者となった刻印が、藍色の眼にしっかり晒されているのが苦しくて、そろりと手で隠そうとした。

「隠さなくていい」

 優しい声と共に、手を退けられた。

「この傷は全部、お前が誇り高い獣人として戦い抜いた証だろう?」



今日もどこかで蝶は羽ばたくの最初へ 今日もどこかで蝶は羽ばたく 52 今日もどこかで蝶は羽ばたく 54 今日もどこかで蝶は羽ばたくの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前