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今日もどこかで蝶は羽ばたく
【ファンタジー 官能小説】

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恋するビースト-2


「ルビー!!」

 可愛らしい獣人少女が二人、息を弾ませながら屋敷の門をくぐりかけてくる。
 手にした新聞を振り回す少女たちは、シェアラと双子の黒猫少女キアラだった。

「どうしたの?」

「帝国会議の結果記事、見た!?」

「やったぁ!まさかあんな条例が決まるなんて!」

 立ちあがったルビーに、興奮しきっているらしい猫少女達は、両側から抱きつく。

「え?なんの話?」

 キョトンとしているルビーの前で、シェアラが新聞を広げ、おごそかに読み上げる。

「えっと、帝国議会は失業率の上昇とそれに伴う犯罪増加は、富裕層による獣人の酷使が原因と断定し、その対策案として……ちょっと!ルビー、聞いてる?」

 ワケのわからない言葉の羅列に、あんぐり口をあけていると、キアラに頬をつつかれた。

「う、うん……でも、意味がわからなくて……シェアラたちは、よくそんな難しい言葉を知ってるのね」

 感心したが、双子少女は顔を見合わせる。

「私たちだって、よくわかんないわよ」

「この結果だけをフランシスカさまから聞いて、急いで持って来たんだもん」

「……え?」

「宜しければ、説明いたしましょうか?」

 いつのまにか背後にいたウォーレンが、咳払いをした。

「「あ、お邪魔してまーす!」」

 シェアラたちは可愛らしく声をそろえ、さっと新聞を渡す。
 獣人の殆どは、ろくに教育も受けられず、文字が読めるだけでもたいしたものだ。しかしウォーレンはとても物知りで、何でも解りやすく教えてくれた。

 賢い狼執事は、新聞の記事内容もとっくに知っていたのだろう。
 渡された紙面を読むでもなく、スラスラ説明してくれる。

「つまり、仕事がなく困って犯罪に走る人間が、帝国中にとても増えているのは、一部のお金持ちが獣人奴隷をコキ使いすぎているせいだと、国が認めたのです」

「獣人が奴隷にされて、人間が困るの?」

 キアラが不思議そうに小首をかしげる。

「ええ。体力のある獣人奴隷を限界まで使えば、人間を雇うよりよほど安く済みます。ですから各地で農場や工場を経営するお金持ちは、人間の従業員をクビにし、獣人奴隷を買うようになりました」

「あ……」
 ルビーの脳裏に、身売りされた船の少女たちが浮かんだ。

「この数十年、帝国で獣人奴隷の値段はあがり続け、職を失った人間は増え続けています。得をするのは奴隷商人と、獣人奴隷を多数持っている金持ちだけなのです」

 まったく知らなかった帝国の人間事情に、獣人少女たちは呆然とする。

「そして辛い仕事を山ほどさせられる獣人が、逃げ出したり主人を殺したりする事件も、同じように増えています」

 そこまで言うとウォーレンは少し顔をしかめ、小さく溜め息をついた。
 だがすぐ、気を取り直すように尻尾を一振りし、話を再開する。

「そこで、これらの問題を一度に解決するために、獣人へ給料を払うことと、決められた労働時間以上は働かせていけないという条例ができたのです」

 シェアラとキアラが歓声をあげ、左右からルビーに抱きつく。

「え!?それって、つまり……」

 揉みくちゃにされながら、やっとルビーは震える声を絞り出した。

「獣人全員が、私たちと同じように、ちゃんと雇われるってことですか……?」

 ウォーレンはにこやかに頷く。

「左様です。もっとも、給金は人間の半分以下ですし、隷属の身には変わりありませんが、今までより獣人の暮らしは格段によくなるでしょうね」

 新聞を返されたシェアラが、先生のような狼獣人を見上げる。

「でも、お金持ちの人たちは損しちゃうんでしょ?反対しなかったの?」

「もう、シェアラってば!素直に喜んでおけばいいの!」

「もちろん反対は多いですよ。この案はイグレシアス家より、会議のたび出されては、却下され続けておりました。今回の賛成票もぎりぎりです」

 ウォーレンは誇らしげに、背広の胸元につけたイグレシアス家の紋章ピンバッジを眺めた。

「しかし、同じような方法を昔から独自に行っているイグレシアス領は、帝国で一番治安が良く、経済も潤っています。獣人を鎖につなぎ監視するような手間が必要ありませんからね」

 シェアラとキアラも、胸元の店名つきワッペンを指でなぞり、もっともだという顔で頷く。
 そして可愛いデザインのスカートをフワリとなびかせ、玄関ポーチから飛び降りた。

「じゃぁね、もういかなきゃ!」

「条例記念に、お店で大セールをやるの!忙しくなるわ!」

 嬉しそうに駆けていく双子を見送り、ルビーはまだ信じられない気持ちのまま立ち尽くす。

 台所からタバサが夫を呼ぶ声が聞え、ウォーレンはルビーの頭を優しく一撫でし、屋敷に戻っていった。
 そして扉が閉まるのと、ほぼ同時くらいだった。

「あっ!」

 ふと門の向こうに砂色の髪が見え、ルビーは飛び上がる。革の鞄を抱えた背の高い主人が、ゆっくり歩いてきた。

「メルヴィンさま!?」

「久しぶりだな。帝国会議が終わって、ようやく帰れた」

「……」 

 何度も命を助けてくれたこの人に、もう長い間会っていなかったような気がする。胸がつまり、涙が溢れそうになって唇を噛んだ。




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