歩み出す子孫-1
寒くて体中が寒い。口の中はヒリヒリ塩辛い。
疲労に目を開ける事もできないルビーに、グレンの声が切れ切れに届く。
――ほら、死にたくなきゃ掴まれ。
――お前の甘さが感染したのか?まさかアイツ、飛び込んでくるなんてな。
――でもまぁ、助かったな。俺じゃここまでだ……
――――じゃぁな、ルビー……
「っ!!グレン!?」
遠くなる声を追いかけようと、張り付く瞼を無理やりあけた。
「違う、俺だ」
途端にぎゅっと抱き締められ、頭上から苦々しげな声が降ってきた。
いつのまにかメルヴィンの膝の上で、しっかり抱きかかえられていた。二人ともびしょ濡れで、大きな毛布に包まれている。
「えっ!?え?メルヴィ……」
「しゃべると舌を噛むぞ。かなり揺れてるからな」
「??」
視線だけ動かしてキョロキョロ見ると、どうやら小さなボートに乗っているようだ。
ウォーレンとディオン隊長がオールを漕いでおり、なぜかタバサまで乗っていた。
空はまだ夜なのに、周囲がやけに明るいのは、海上で一艘の小型船が燃えているせいだった。
その更に向こうから、巨大な軍艦がゆっくり近づいてくる。
グレンの船は港にまだ停まっていたが、メチャクチャに壊れていた。
(な、なんで!?どうして!?)
ついさっきまで、グレンの船で捕われる寸前だったはずなのに、状況がまったく把握できない。
混乱しながらメルヴィンを見上げると、軽く頭を撫でられた。
「すぐ岸につく、休んでろ」
コクコクと頷いた。
いくら暖かい地でも、真冬の夜風は冷たく、ビショ濡れの身体は冷え切って歯がガチガチ鳴る。そっと背中に添えられた大きな手が、とても暖かい。
絶え間ない波の音に混ざり、大好きな低い声が耳元で不機嫌に囁いた。
「色々と言いたい事はあるが……とりあえず、他の男の名前を呼んで起きるのは、もう止めてくれ」