紅蓮のビースト-3
「完全に従わないからって、そんな理由で殺したの!?」
非難を込めて睨むと、嘲笑が帰って来た。
「違う。あいつらは、あの移動で旅団を抜け、魔晶石や資金を持ち逃げする計画を立ててやがったんだ。お前たちを見てるのが辛いとか、抜かしてたな」
「……うそ……」
「笑えるなぁ。弱者の排除にてめぇの手は汚したくないが、身を切って助けるのも嫌、見えない所で勝手に死んでくれるなら良いらしいぜ」
どんどん足元が崩れていく。
獣人という同族を……しかも同じ旅団の仲間を騙し裏切り殺しあうなんて……。
どれほど自分を虐げていた相手でも、まだどこか信じていたのだ。
獣人であるというだけで、勝手に妄信していた。
「言っとくが、俺は裏切りを怒ってるわけじゃねぇ。むしろ中途半端な奴等にしちゃ、思い切った決断だと褒めてやりたいくらいさ」
グレンは長い尾を、満足気に一振りする。
「だが、流石に実行されちゃ俺たちは困る。だから阻止した。それだけだ」
「それ……だけ……?」
声が引きつる。眩暈がする。
(他にも方法があったんじゃない!?説得しようと思わなかったの!?)
叫びたかった言葉がうまく出ない。
「ああ。弱いが数だけはいたから、人間を使って奇襲させるのが一番だと判断してな。始末したい奴に目印を持たせて、ついでにお前にまとわりつくルシーダ婆や足手まといも、まとめて潰したんだよ」
「め……目印って、まさか、魔晶石……!?」
震えるルビーの声に、グレンがニタリと口元を歪める。それが肯定を表わしていた。
住居を移動する直前、光らせ互いの目印にするようにと、グレンが小さな魔晶石を皆に配った。
不要と見なしているルビーの仲間にまで配られた時は、心底驚いたものだ。
グレンが貴重な魔晶石を貸してくれたと、皆喜んでいたのに……。
「これが、選び抜いた新しい『暁の爪』だ」
室内の半獣たちが、拳を振り上げ呼応する。
響き渡るケダモノの咆哮が、頭の中にガンガン鳴り響く。必死で吐き気を堪えながら尋ねた。
「……どうして、私に目印を渡さなかったの?」
婆さまにも魔晶石を渡しながら、グレンはルビーにだけは寄越さなかったのだ。
それほどルビーを嫌っているのかと思っていたが……。
「お前を殺す気はなかった」
苛立たしげに、グレンは舌打ちする。
「だが、ルシーダ婆を庇って逃げ回ってくれたせいで、見失っちまったんだ。生きちゃいねぇと思ったが、家畜に成り下がったお前を見た時は、目を疑ったぜ」
「違う!!家畜じゃない!ちゃんと雇われていたの!」
一瞬、恐怖も忘れてグレンを真っ向から睨み返した。
「メルヴィンさまは、人間でも優しかった。死にそうだった私を助けてくれた恩人よ」
「へぇ、そんならどうして逃げ出した?」
「それは……」
嘲り声の指摘に、ルビーは言葉を詰まらせた。
「フン、その辺の事情は、後でゆっくり聞かせてもらうさ。それより、お前に見せたいものが、もう一つある」
グレンに腕を掴まれ、さらに船の奥へと引きずられた。
階段を降りるたびに空気は澱み、嫌な雰囲気が増して行く。
突き当たりの壁に、頑丈そうな扉が一つあり、重い軋み音を立てながらゆっくり開いた。