苦渋の告白者-5
そのままグレンに身体を貪られた。
半獣になった爪に引っかかれながら、硬い肉で純潔を引き裂かれた苦痛は、今でも忘れられない。
グレンは約束を守り、狩りの出来なくなった者たちに、最低限の食事はくれた。
それをどうやってルビーが得たか聞き、婆さまは激怒したが、盲目となった身ではグレンに敵うはずもない。
毎日のように犯されたが、栄養不足で弱りきっていたせいか、ルビーは孕まず苦痛の日々を過ごすだけだった。
そしてグレンも、楽しんでいるようでもなかった。ただ性器を乱暴に抜き差しし、子種を注ぎいれるだけ。ルビーを甘い理想主義の腑抜けだと罵り、噛み傷や引っ掻き傷が増えていった。
次第に、他の獣人までルビーを弄ぶようになった。だが彼らを本当に興奮させたのは、痩せこけた少女の身体ではなかった。
人間を殺し続けるうちに、弱者を嬲ることで優越感と満足感を得るようになったのだ。
種族の違う獣人なら孕む心配もないと、グレンは特に止めなかった。ただ、絶対に殺すなと念を押し、対価だけはきっちり払ってやれと言った。
グレンの部下たちから、『娼婦』だの『淫売』だの、好き勝手に罵られても、そんなに悲しくはなかった。
悲しむ余裕なんてないほど疲れて、命を繋ぐのに必死だった。
ひたすら媚びて、されるがまま弄ばれた。
旅団が壊滅しなければ、きっと今もそうやっていただろう。
話し終わると、メルヴィンは蒼白になっていた。さぞ軽蔑されだろう。
「ごめんなさい……」
「……どうして謝るんだ」
掠れた低い声で尋ねられ、鼻の奥がツンと痛くなる。
怒りにぎらついている藍色の眼が、怖くて見れない。
「メルヴィンさまに優しくしてもらえるのが嬉しくて……嫌われたくなかった。汚いことしてたのを、隠していて、ごめんなさい……」
「嫌うはずがないだろう!」
聞き返す間もなく抱き締められ、唇を塞がれる。
押し付けられた唇が離れても、抱き締める腕はそのままで、長身をかがめたメルシンが、泣き出しそうな顔で見つめている。
「でも……」
「もうビースト・エデンになんか行くな」
「え?」
「お前を傷つけるヤツは、人間でも獣人でも許さない」
これ以上ないほど真摯に告げられた。
「ルビー、愛してる。俺とずっと一緒にいてくれ」
「あ……」
抱き締められたまま、ガクガクと足が震えた。
よろめきながら、必死でメルヴィンの腕を振り解く。
「……メルヴィンさま。婆さまは昔、人間の貴族に恋をしました」
震える声で最後の秘密を吐き出した。
「けれど貴族と獣人が恋をするのは許されないと、婆さまは逃げだして旅団に入った……私はその気持ちが、やっと解りました」
獣人と恋に落ちる人間もいる。
表向きは主人と奴隷でも、人間の夫婦以上に仲むつまじく暮らす者たちも存在する。
しかしそれは、一般庶民に限り、若い頃の婆さまが恋した相手は、領主の跡とり息子だった。
獣人との恋愛など許されるはずもなく、駆け落ちしようと言われた夜、婆さまは一人で城から逃げだした。
小さな袋に入れ生涯大事に持っていた古いタグは、婆さまの亡骸と共に埋めた。
婆さまの話を聞き、幼い頃のルビーは、不思議でしかたなかった。
二人とも相手が大好きだったなら、そのまま一緒に逃げてしまえばよかったのに、と言った。
そうしたら婆さまは、とても奇妙な返事をした。
『私は臆病だった。あの人の心を失いたくなかったのさ』
寂しげな声が、耳の奥に蘇る。
婆さまはルビーに、人間にはあまり関わるなと言った。特に恋だけはするなと忠告した。
(婆さまが忠告してくれたのに……私も人間の貴族に恋をしちゃった……)
こんな酷い事実を告白しても、メルヴィンは愛していると言ってくれた。
信じられないほど嬉しい。
だからこそ、貴族で帝国軍人である彼を、多数の非難に晒し、様々なものを奪い、いつか自分を選んだ事を後悔されるのが耐えられない。
思い出でもかまわないから、メルヴィンに、自分を好きなままでいて欲しい。
「大好きです。だから……さようなら」
半獣の姿になり、メルヴィンの手をすり抜け、窓から庭へ飛び出す。
「ルビー!!」
必死で叫ぶ声を遠くに聞きながら、塀を飛び越え、驚く人々の間をひたすら疾走した。
風が涙を後ろに飛ばしていく。
薄暗くなってきた街中を駆けて駆けて……いつのまにか、見たこともない薄汚れた路地に迷い込んでいた。