投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

今日もどこかで蝶は羽ばたく
【ファンタジー 官能小説】

今日もどこかで蝶は羽ばたくの最初へ 今日もどこかで蝶は羽ばたく 14 今日もどこかで蝶は羽ばたく 16 今日もどこかで蝶は羽ばたくの最後へ

美貌の兄上-4

 最高潮のテンションで高笑いする姉(兄)を無視し、メルヴィンが尋ねた。

「どれが良い?」

「えっと……」

 プレートなんてどれも同じだろうと思っていたから、完全に面食らってしまう。困ってしまい、メルヴィンを見上げた。

「メルヴィンさまは、どれが好きですか?」

「俺か?」

 うろんな藍色の瞳を軽く見開き、メルヴィンは一通りタグを眺める。

「……そうだな、これはどうだ?」

 大きな手がさしたのは、プラチナでできた、小さなハート型のタグだった。赤い雫型の石が一緒に付き、歩くと揺れるようになっている。

「あら、似合いそうじゃない。あんたも意外とセンスあったのね」

 フランシスカが褒めているのか解らないセリフを投げ、タグを摘む。

「これで良いかしら?」

「はい、お願いします」

 タグなんか一生つけたくないと思っていたのに、キラキラ輝くハートと赤い石は、とても魅力的に見える。フランシスカの言う通りだ。ピアスをわざわざ買う人間の気持ちが、わかるような気がした。
 それに、メルヴィンが選んでくれたというのが、なぜかとても嬉しい。

 手先の器用なリス獣人の店員が、極小のノミであっという間に洒落た飾り文字をプレート部分に掘り込む。

「すぐ済むからね」

 タグ用の孔を開けるため、シェアラが耳を氷で冷やしてくれる。

(痛い思いなんて散々したんだから、耳に針を刺すぐらい、どうってことない……)

 そう思っても、金属トレイに並んだ消毒薬や針を見ると、心臓がドキドキしてきた。耳と尻尾が拒否するように、勝手にピクピク動いてしまう。

「あ!動くと危ないわよ」

「う、うん……」

 懸命に耳を抑えようとしたが、どうも上手くいかない。

「ルビー、ちょっと来い」

 椅子に腰掛けたメルヴィンに手招きされ近寄ると、ひょいと膝に乗せられた。

「わ、わ……」

「ほら、動くな」

 頭と背中をしっかり抑えられ、広い胸元に押し付けられた。
 トクントクンと、軍服越しにメルヴィンの鼓動が伝わる。ぎゅっと目を瞑っていると、耳元でプツリと音がした。

「終わったぞ」

 抱き締めていた手が離れていき、あわてて膝からおりて耳をそっと触ってみる。
 硬い金属の感触が指に伝わった。

「傷口が固まるまで、消毒は朝晩してね」

 フランシスカは念を押し、紙袋を二つくれた。着替えの衣服を詰め込んだ大きな袋と、消毒薬と例の薬草香油の瓶が入った小さな袋だ。
 何度も礼を言い、ルビーはメルヴィンの後に続き店を出たが、ふと気付いた。

「荷物を持つのは、小間使いの仕事ではないでしょうか?」

「ちゃんと持ってるだろうが」

「いえ、でも……」

 ルビーが持っているのは、小さな軽い紙袋だ。メルヴィンの大荷物とチラチラ見比べてしまう。大きな袋を肩に担ぎ、スタスタ歩きながら、ぶっきらぼうにメルヴィンが答える。

「そっちは割れ物だ。注意して運べ」

「あ……はい!」

 繊細なガラス瓶の入った荷物を、慎重に抱えなおす。
 そのまま無言で歩き続ける長身の後ろを、はぐれないようしっかり着いて歩く。
 夜ふけでも帝都の大通りは賑やかだったが、飛びぬけて高い位置にある砂色の髪は、十分目立った。

 少し歩いて角を曲がり、違う通りに入ると、嘘のように辺りは静かになった。
 緑豊かな庭を持つ立派な屋敷が立ち並び、道の両脇には各家の柵塀が、どこまでも続いている。

 やがてメルヴィンは重厚な屋敷の前で足をとめ、門に手をかけた。
 しかし、どこからか猛然と飛び出してきた影が、さっと先に内から門を開く。

「お帰りなさいませ、メルヴィンさま」

 黒い背広をきちんと着こなし、うやうやしく出迎えた男性は、年配の狼獣人だった。



今日もどこかで蝶は羽ばたくの最初へ 今日もどこかで蝶は羽ばたく 14 今日もどこかで蝶は羽ばたく 16 今日もどこかで蝶は羽ばたくの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前