美貌の兄上-3
店奥に入ってから、たっぷり一時間は経っただろう。
汚れをすっかり落とせば、ルビーの肌は陽射しの強い辺境で暮らしていたと思えないほど白い。ほとんどいつも、毛皮に覆われた半獣の姿で暮らしていたせいだ。
人間の姿は細かい作業をするには便利だけど、過酷な荒野で暮らすには、半獣姿でなければ耐えられなかっただろう。
少女達に渡された新品の服を、ルビーは恐る恐る身につける。
肩口の膨らんだ濃紺のメイド服に、白いエプロンドレス。スカートの後ろに尻尾の穴があり、袖にはスリットが入っている。
これなら半獣になっても袖が破れないだろう。黒い革靴も、半獣時には簡単に脱げるよう工夫されていた。
下着も全て真新しいものを用意され、太ももまでの白いストッキングは、ガーターベルトで留める。
適当に自分で切っていた髪も、スッキリと整えられた。
濃紺の生地に白いフリルをつけたヘッドドレスを被り、顎下でリボンを結ぶ。
「「「「完・了・!」」」」
少女たちの掛け声と共に姿身の前へ立たされ、ルビーは絶句した。
―――誰?
痩せてはいるが、どこもかしこもピカピカの獣人少女が、驚愕の顔で写っていた。
「お待たせいたしましたぁ!」
シェアラたちに背をおされ、おずおずと戻ったルビーを、メルヴィンもポカンとした顔で凝視していた。
「あの……変でしょうか?」
「……」
無言のメルヴィンを、フランシスカが再びドつく。
「相変わらずの朴念仁ね。気の聞いた褒め言葉の一つもいいなさいよ」
「あ、ああ……似合っている」
そのままメルヴィンはフイと横を向いてしまい、卓上に視線を戻す。
「次はタグだな。この中から好きなのを選べ」
黒絹を敷いた平たいガラスケースに、沢山のタグが輝いている。
しかしそれは、ルビーが今まで知っていたタグとはまるで違っていた。
様々な美しい形をしており、小さなクリスタルがついていたりと、同じものはどれ一つなく、立派な宝飾品だ。
当然ながら、店の獣人少女達がつけているタグも、美しいものばかりだった。
「こんなに素敵なタグ、初めてみました」
「フフン!この店を開く前は、帝都でもダサイプレートしか売ってなかったのよ」
フランシスカが胸を張る。
「獣人だって、規則で嫌々付けてたけど、考えてみてよ。ピアスなら人間もしてるじゃない。
義務でもないのに、わざわざお金を払って付けたがるのよ?それなら、自分から付けたくなるようなタグがあればって、お店を出したの」
「すごい……」
純粋に驚き、フランシスカを尊敬の眼差しで見上げた。
「服だって、せっかくの素敵な尻尾と耳はもっと強調すべきだし、半獣で体格が変わっても破けなくて済めば、便利で経済的でしょ?」
興奮してきたらしく、フランシスカの声が段々と大きくなる。
「モノの解らない連中は、散々バカにしてくれたけど、今じゃ帝都では、うちの品を獣人に着せるのがステイタスになってるんだから!!ざまあみなさい!!!可愛いは銃より強いのよーっ!!!!!」