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栗花晩景
【その他 官能小説】

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早春編(1)-7

 私たちはジュースを飲みながらとりとめのない話をした。流行りの歌や芸能人のこと、ギターが欲しい、というようなことである。
 私はカバンに手を乗せて週刊誌を取り出す機会を見計らっていた。
(面白いものがあるんだ……)
そろそろと思っていると、古賀がおもむろに立ち上がって押入れを開けた。奥から引き出したのは重そうな段ボール箱である。それを部屋の中央まで引きずってきて、古賀は笑いかけた。
「見るかい?」
「なに?それ……」
応えながら、私には箱の中身がどういう類いのものであるか想像がついていた。彼の、ややくぐもった声に、それと示唆する響きが感じられたのである。
(たぶん……)

 箱には雑誌類がぎっしり詰め込まれてあった。
(これは!……)
中学生では買うのが躊躇される大人向けの週刊誌、私が持ってきた女性誌も混じっている。箱の端に挟み込まれた紙袋には雑誌から切り取った写真が束になって入っていた。ほとんどが外国人の写真である。
「すごいな!」
巨大な乳房と尻を見せた挑発的なポーズが次から次と現れる。中には切れ端のような下着が局部に食い込んでいるものもある。
(ほんとに、すごい……)
これほど強烈な視覚からの刺激は初めてだった。私は感嘆の声を上げながら食い入るように繰っていった。

「いいのがあったら持っていけよ」
古賀は見飽きているのか、特に目を向けるでもなく、雑誌を畳に並べていく。
「これ、いいな」
気に入った何枚かがあった。そのうちの一枚は東洋系の顔立ちで、長い髪と柔らかそうな乳房が美しかった。クラスの三原恵子にどこか面差しが似ていた。
「これ、ちょっと三原に似てないか?」
「ふん、そういえば。三原、好きなのか?」
「いや、特にっていうわけじゃないけど……」
「それ、あげるよ」
急に顔が火照り、彼女を写真に重ねた。

「こういうの、見たことあるか?」
古賀は引き出しから一冊の本を取り出した。『性の歓び』というしっかりとした装丁の本である。開いてみると水着姿の女が様々なポーズをとっている。体位の解説書であった。
「こんな本、よく買えたな」
「平気さ。何にも言われないよ。古本屋だし」
古賀は平然と言ったが、私にはとても出来ることではない。持ってきた週刊誌など出さなくてよかったと思った。古賀ならとっくに知っているに決まっている。

「エクスタシーってなんだ?」
「感じて気持ちよくなることさ」
「アクメ、って?」
「絶頂だよ。イクこと。男なら射精の瞬間。フランス語だったかな」
私は本に出てくる不明な用語をいくつも質問した。古賀が答えに窮することはなかった。尤も、それが正しいのか判断することは出来なかったし、古賀にしても経験ははなかったのだが、その時の私にはどうでもいいことだった。実体験への憧れよりも身近な視覚や知識からの刺激で頭の中はいっぱいだった。

「この上に男が乗って、ペニスを入れるのか……」
体位の写真は想像力をかき立てて無限に広がっていく。いつしか三原恵子と自分の組み合わせができていた。私はイメージした彼女の体を思い描きながら写真のページをいったりきたりした。
「後でゆっくり見ようぜ」
言われて気がつくと薄暗くなっていた。古賀が部屋を出て行き、間もなく食器が触れ合う音がきこえてきた。


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