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栗花晩景
【その他 官能小説】

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早春編(1)-6

 一度経験してしまうと体の反応はますます活発になっていった。女子の胸のふくらみからその形を思い描いたりすると授業中ずっと硬くなったままのこともあり、そんな日は寝床に入るまで我慢できずに風呂やトイレで擦り立てた。家に一人の時など二度三度と放出したこともある。気持ちが高ぶった時の衝動は抑えようがない。
 欲情の切っ掛けはどこにでもあった。辞書を調べていて偶然『まぐわい』という言葉が目に入り、『男女の肉体的交わり……』。意味を読み終えた時には勃起していた。衣料品のチラシのモデルを見ながら放ったこともあった。
 しかし、回数を重ねていくうち、昂奮すればするほど事後の脱力感が大きくなって、罪悪感も感じるようになった。やり過ぎると体に悪いという噂もあって、飛び散った白濁の液を見つめながら、もうやめようと思うのだが、翌日には忘れていた。どうしようもない体の生理に十四歳の私は戸惑い、揺れていた。


 古賀の家に泊まりにいった時のことは印象深く憶えている。親戚の法事で両親が一晩留守にするというので誘われたのである。親は彼も連れていくつもりでいたらしいが私が泊まることで納得してくれたようだ。

 話が決まると頭の中は女のことばかりである。古賀と何を話そうかとそれだけでいっぱいになった。
(思う存分セックスの話ができる……)
自分だっていろいろ覚えたこともある。母親が読んでいた女性週刊誌を廃品の中から見つけたのだ。こっそり読んでみると驚くほど露骨な小説や性の相談事が載っていた。フェラチオやクンニリングスという言葉を知ったのもその雑誌である。愛の交歓と題してイラストまで描かれてあった。
(古賀もまだ知らないかもしれない)
私は胸を弾ませながら雑誌をカバンに忍ばせた。

 土曜日の午後、昼食もそこそこに家を出た。明日は日曜日だし、二人だけの夜だ。遅くまで起きていても何も言われない。いままで学校でこそこそ話していた何倍もの時間がある。考えただけで私の足は速まった。

 古賀はいつもと変わりのない柔和な顔で私を迎えた。
「あがれよ。誰もいないから」
私が靴を脱いでいる間に古賀は玄関の戸に鍵を掛けた。戸締りに用心するように言われていたのか、それが習慣なのかわからないが、その施錠の音が私には現実を遮断する秘密の世界に踏み込む合図のように聞こえた。

 カレーの匂いが漂っている。古賀の母親が作っておいてくれたようだ。
大きな家ではないが、古い建物である。何十年もの時を刻んだくすんだ色とその家特有のニオイが染み込んでいる。私の家は団地なので木造の建物には子供の頃から憧れがあった。全体に薄暗く、それが却って生活感を醸し出しているように感じる。

 部屋に入ってまず目についたのはたくさんの参考書である。数十冊はあろうか。
「勉強してるんだな」
「そんなにしてないよ。親が勝手に買ってくるんだ。ほとんど読んじゃいないよ」

 四畳半の部屋には机と本棚の他、学生服がハンガーにかかっているだけである。内心拍子ぬけの感が否めなかったのは、古賀のことだから、すでに『愉しみ』の材料が用意されているだろうと期待があったからだ。泊りにきた目的は何か。口には出さなかったが、古賀も自分と同じことを考えているはずである。


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