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沈む町
【大人 恋愛小説】

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ソーダアイス-2

朝からうだるような暑さで、予定の2時間前に目が覚めた。
早く起きたって別にすることはないし、困るんだよ、と、太陽を睨み付けながら心の中で呟いた。
昨日、ダイエットを決意したことを思いだし、急に浴槽にお湯を張って、半身浴を試みた。
音楽があれば、30分はつかっていられるだろう、とたかをくくっていたが、案外辛い。
お気に入りの小説を持ち込んだが、3ページ程で文章を追うのが辛くなり、お気に入りの洋楽アルバムの6曲目のイントロで、ギブアップの鐘が鳴った。
約20分。
美は努力なしでは得られないのだ。

なれないことをしてしまったせいで、頭がくらくらする。
仕事前にするもんじゃないな、これは。
おまけに麦茶を切らしている。水分補給もそぞろに、化粧水をぬりたくって、裸でベッドに横たわった。
会社のマドンナのゆかりさんも、こんな辛い思いをしてるのかなあ。
きっとしてないだろうなあ。
いつも涼しく笑って、好きなものを食べて、着たい服を着て、幸せそうにしてる。
勝手に想像して、自分とは持っているものが違うんだとひねくれて、ふて腐れる。

つくづく、私ってダメな女。


会社に着いてすぐ、気分が悪くなって休憩室で横になっていた。
よほどのことがない限りいたって健康で丈夫な私だからか、結構皆から心配されたのがちょっと嬉しかった。まさか20分熱湯に浸かっただけですとは言えなかった。
みんなが働いてる中で、久しぶりに病人の気分。結構、悪い気はしない。

「おーい」

多田さんだ。
その声ですぐに目が覚めたけど、ちょっとか弱いところを見せたくて、だるそうな顔を造った。
「ひゃ」
頬に氷点下の冷たさが当たった。

「やる。倍返しな。」

ソーダアイス。
私がいつも食べているソーダアイス。ラムネの入ってるやつ。

「わーっ!」
嬉しすぎて、がばっと跳ね起きてしまった。

「お前、食いもんに対しては元気だなー」
「…はい」
「飯は食ってそうだから、心配いらねーな」
「どういう意味ですか!」
「だって、そうだろ。」

なにも言えない。3食きっちり食べている。
「今日は暇だから、無理しないで、休んどけ。」
多田さんは大きな手を私の頭にポン、と置いて、去って行った。
神様、どうか時間を止めて下さい。

しゃくしゃく。
木のアイス棒の周りに放射状に広がる結晶、涼しいラムネの歯触り。
多田さんがくれたアイス。
しゃくしゃくしゃく。
ありがとう。
あなたの青春の味は何ですか?って聞かれたら、紛れもなく私は、ソーダアイスと答えるだろう。


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