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沈む町
【大人 恋愛小説】

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浮かれる町-1

「お前、また食うのか!?それ何ご飯だよ。」
とっさに後ろに隠したコンビニの袋を、目ざとく見つけた多田さんは、するりと背後に回って取り上げた。
「夜ご飯。まだ17時だからいいんです!」

「もう上がり?早く帰んねえと課長に仕事頼まれるぞ?」

いたずらっぽく笑う多田さんの広い背中が遠ざかる。
どうして、そんなに胸を締め付けるんだ。この人の笑顔は。

休憩室でソーダのアイスをしゃくしゃくかじる。
中に入ってるラムネが好き。
今日はそんなに暑くないけど、なんだか昼間から喉が乾いて、
帰る前に絶対こいつを食べようと決めていたのだ。

スカートのホックもはずして、結わえていた髪をおろして、自宅気分でくつろいでいたら、
ガチャリとドアの開く音がした。
身なりを正す間もなく、音の主は休憩室に入ってきた。

「あら、木村ちゃん、まだいたの。」
「お疲れさまですー。ちょっと、疲れて帰る気がしなくって。」

先輩のゆかりさん。
すっごく可愛くって、華奢で、仕事も出来る。
あれ、今日は出勤してなかったっけ。なんだかすごくおしゃれしてる。
ネイビーのワンピースに、白くて長い手足が映えている。
私には絶対に似合わない、きれいなワンピース。

「ちょっとぉ、何その格好。気ぃ抜きすぎー」
小動物みたいなくりくりした目をくしゃっとさせて、ゆかりさんは笑った。

「あれぇ、デートですか?」
「ならよかったんだけど。友達と飲んでただけ。」
困ったような顔でまた笑う。
どうしてこんなに可愛い人に恋人の一人もいないんだろう。
入社してからずっと疑問。

じゃあね、おつかれ、と言ってゆかりさんは帰って行った。

苦手。

私とは正反対。
可愛くて、皆に好かれてて、何でも出来る。

帰りがけ、事務所にいた多田さんからのいきなりのお誘い。
「おい、平沢、今度の金曜皆で花火見に行くぞ。」

今、疲れが吹っ飛んだよ。

早く帰って、何着るか考えなきゃ。






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