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沈む町
【大人 恋愛小説】

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爪磨き-2

「ねえ、佳菜子も行くんでしょう、花火大会。」

朝、会社に入ってくるなり、同期の典子が話しかけてきた。

「あぁ、うん。典子は?」
「私、遅番なのー。いいなぁ、小塚さんとか、一緒なんでしょ。」
典子はにやにやしながら言った。
小塚さんは、多田さんの同期で、誰が見てもすっごく男前。
女子社員の憧れの的だ。
人見知りの私は、真面目な小塚さんとはあまり砕けた会話をしたことがない。
「私、小塚さん苦手なんだよねえ。」
私はストッキングをフンフン言いながら履く。
典子はスルスルといとも簡単に履く。スリムなのだ。
「うーん、まあ、わかるかも。多田さんみたいに人懐っこくはないもんね。」
「うん!」
「なんでいきなり声大きいのよ。」

やばっ。典子に怪訝な顔をされた。
コーヒー入れてくるねー、なんて適当にはぐらかして、そそくさと休憩室を出た。

ドアを開けていきなり、目の前に多田さん。
「おー。今日もいいハリしてんな、ほっぺた。」

そう言って多田さんは私の頬をぷにっと押した。
そして「おお、すごい弾力」と言って1メートル程後ろに跳び跳ねてみせた。
私のコンプレックス、頬骨。と、ほっぺのお肉。
最近気にならなくなったのは、これのせいかな。なんてね。
「ちょっとー、女の子いじめないで。」
優しい声がうしろからすると思ったら、ゆかりさんだった。
ゆかりさんは、多田さんのシャツの裾をちょいと引っ張った。
花火大会、ゆかりさんも来るみたい。
正直、嬉しくない情報だった。
だってゆかりさんが浴衣なんて着てきたら、きっと全部持ってっちゃうから。
多田さんの視線とか、色々。

ハンガーにかけて毎日眺めているキナリのブラウスが、なんだか少し可哀想になった。


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