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性愛交差点
【その他 官能小説】

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性愛交差点-8

 ところがこの夜の美佐子は、いつもの背筋を伸ばした堅物の雰囲気がなかった。柔和で絶え間なく笑顔を見せ、ビールを注いでくれたり、驚いたことに自分でも口にした。
「お義母さん、飲めるんですか?」
「少しなら……」
美佐子は恥ずかしそうに俯いた。
「知りませんでしたよ。いままで見たことがなかったから」
信彦がすすめると嬉しそうにコップを手にする。間もなく頬に桜色がさしてきた。
「すぐに赤くなるから飲まないのよ。恥ずかしくて」
「いえ、きれいですよ」
「いやだわ……」
さらに頬が染まり、美佐子は上目がちに視線を向けてきた。
 その時、いつもと違う美佐子の様子が化粧の仕方や服装からも作られていることがわかった。
 ふだんは目にしたこともない紅がうっすらと唇に引かれている。服もちがう。いつも地味な中間色をみの虫のように羽織っている印象であったが、この日は萌黄色の薄手のセーターと、ぴったりとした白のスラックスを穿いている。初めて見る体のラインである。意外なスタイルの良さに驚いた。胸も形良く、くっきりと盛り上がっている。
「お若いですね。失礼ながら、見直しました」
信彦が言うと、ちょうど冷蔵庫を開けて背を向けていた美佐子の耳がぽっと赤く染まった。
「スタイルがいいです」
「何を言うの、信彦さん……」
ビールを出すのに手間取っている。後ろから全身を見られている硬さが感じられた。
「おばあさんですよ」
振り向いた美佐子は顔を上げなかった。

 年齢を感じさせない体形を見ても、赤くなって恥じらう一面を知っても、彼にとっては小枝子の母であり、有香の祖母である。それはあえて考えるべきことでもない。思いがけない若々しさを知って感嘆したことは確かだが、それ以上の感情は起こらなかった。まして、彼女を『女』として意識するなど思いもよらないことであった。それが突如として軟体動物のように支えを失った。
(何ということだ……)
信彦は人の心と肉体が、性に対して恐ろしいまでに脆弱であることを痛感した。


 食事を済ませて、信彦は美佐子のすすめに従って風呂に入った。
(思ったより気疲れしないで済んだ……)
素直な気持ちが胸に満ちていた。
 湯に浸かりながらふうっとついた溜息は、とりあえず美佐子と打ち解けることが出来た安堵の思いであった。

 体を洗っていると扉がノックされた。返事をする間もなく開いた。
「信彦さん、背中流してあげる」
驚いて振り向くと腕まくりをした美佐子が入ってきた。
「背中、洗ってあげる……」
笑ってはいるが強張った顔である。
「いえ、もう終わりますから」
美佐子は何も言わず、彼が持っていたタオルを取ると黙って背中を擦り始めた。思いもよらない展開に戸惑いながらも厚意をを受けるしかなかった。
「すみません……」
ノックから一連の動きにためらい、滞りがない。よほど意を決してきたものか。
 美佐子は単調にタオルを上下させている。彼女の息が首筋に吹きかかり、意外に顔が近い気配である。
(前を覗いている?……)
そう思った時、むくむくと勃起してきた。
(まずい……)
隠すものがない。慌てて膝を閉じたが、一瞬、美佐子の手が止まった。そして溜息が洩れ、ふたたび首筋に触れた。


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