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性愛交差点
【その他 官能小説】

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性愛交差点-7

 小枝子が友達と旅行に出かけると知った時、信彦の頭には美希の肉体が飛び交った。彼女とは半月ほど遠ざかっていた。
「いつ会える?」
校内ですれ違う時に何度か打診があった。何かと理由をつけて延ばしていたのである。もちろん抱きたい。味わいたい。高まる想いとともに危うい立場を考える。関係は断ち切りたくない。脆い抑制で何とか堪えていたのだ。
 だが、小枝子が家を空けることなど滅多にない。信彦の気は地鳴りのように奥底から響きを伝えていた。

 旅行の日程は有香の修学旅行にあたっている。その母親たちが子供のいない間に楽しもうというのである。
「急に決まっちゃったの。島崎さんの提案でね。こういう時じゃないと主婦は行けないでしょ。悪いけど、いい?」
信彦は快く了承した。美希の微笑みが浮かんだ。
「一泊だから」
別に不自由はないと言おうとした時、美佐子が珍しく笑いかけてきた。
「夕食は私が何か美味しいものを作りますよ」
小枝子にではなく、信彦に頷いて言った。
「お母さん、頼むわね」
「少し手のこんだものでも考えようかしら」
「あら、二人だけで贅沢しようってこと?」
「だってあなたはホテルで豪華なディナーでしょう?ねえ、信彦さん」
「たいしたことないわよ。主婦の旅行よ。ささやかなものよ。ねえ、あなた」
二人の話の流れに口実を挟むことが出来ない。
「主婦はたまには解放感に浸りたいのよ」
「あらあら、いつも自由にしてると思うけど」
「ひどいわね、お母さん。どういう意味?」
小枝子が笑いながら言った。

(牽制された……)
信彦はそんな感じを持った。もしかすると母娘で示し合わせて彼の行動を封じようとしているのでは……。彼は言葉を呑み込んで黙っていた。飲みに行く約束があると言おうとしたのだが、言えなかった。
(美希とはいつでも会える……)
それに、なるべく控えた方がいい。自分に言い聞かせた。


 いったんは諦めて納得したものの、当日になって義母と二人きりの気まずい食卓を想像すると気が重くなった。
(何とか避けられないものか)
縋るようにいろいろな理由を考えた。
(言い訳なんかしなくたっていいんだ……)
しかしどれもこの期に及んでとなると真実味に欠けることばかりだ。彼のために夕食を準備してくれる美佐子に堂々と言えることは思いつかない。考えることはすべて嘘なのだから無理もないことである。

 もやもやした気持ちのまま、たまたま通りかかった事務室の前で美希と出くわした。信彦が誘いに来たと思ったらしい。周囲を見回して早口の小声で言った。
「ごめんね。アレなの」
信彦は微苦笑を浮かべて、
「また」と応えた。
美希に拒否されたような敗北感を感じて、いよいよ帰るしかないと覚悟を決めた。

 そもそも美佐子は信彦を小枝子の結婚相手として好もしくは思っていなかった。と、彼は感じていた。それは美佐子から言われたわけでもなく、小枝子から聞いたのでもない。初対面のしかつめらしい表情から彼が勝手に受けた印象であった。
 きっと一流大学を出たエリートを望んでいたにちがいない。小枝子の学歴に比して引け目のあった彼は美佐子の本心を想像していまだに見下ろされているような煙たい存在に感じている。
 その後、どうやら彼の思い過ごしであるとわかってはきたが、どうにも気安く話すことが出来なかった。
(飯を食ったら部屋で本でも読もう)
仕事があると言えばそれで清む。そうしようと決めた。


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