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飼育
【ロリ 官能小説】

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その(3)-3

 翌日から毎晩コンビニで弁当を買って帰った。
(もし帰っていたら一緒に食べよう)
アイスクリームは冷凍庫にぎっしり詰め込まれ、カナの好きなスナック菓子もテーブルを被うほど買いそろえた。
 カナが彼の心を支配していた。理想の女、自分好みの女にしようとしているうちに彼女に依存して逆にのめり込んでいることに気づいた。それでもいい。
(カナを失ったらどうしよう……)
精神の揺れが頻繁に起こるようになった。


 十日後の真夜中のこと、眠りに落ちかけていた山野はかすかな物音に目が覚めた。ドアノブが回る音が聞こえた気がした。半身を起して耳を澄ませた。続いて鍵が差し込まれる音。これははっきり聞こえた。
(カナだ!)
電気を点け、玄関に急いだ。

「カナ……」
そこには野良猫のようなカナがいた。
「へへ……ただいま」
薄汚れたシャツとジーパンは出かけた日のままである。東京へ行くというのでミニスカートはやめるように山野が言ったのだ。
 嬉しさが込み上げているのに、同時に怒りが砂粒のように混じって言葉がうまく出てこない。
「何をしていたんだ」
声が少し震えていた。
カナは答えず、目を伏せたまま立ち尽くしている。
「心配してたんだぞ」
「船橋から歩いてきた」
「なんで」
「お金がなかった」
「ばかだな。電話すればいいのに」
「番号知らないもん」
そういえばここに掛けたことはない。
「どのくらいかかった?」
「時計ないからわかんない。迷っちゃった」
夜中とはいえ蒸し暑い。カナの顔は汗でべっとりである。

「早くあがりなさい」
近寄ると強烈な臭気が鼻腔をついた。まるで汚れを煮詰めて濃縮したような臭いだ。他の女だったら二度と嗅ぎたくはないだろう。だがそれは、
(カナのものだ……)
たしかなその事実が感覚を麻痺させる。待ち焦がれ、募りに募った想いは悪臭でさえ愛しさ、懐かしさに変える。

 カナを胸に抱き寄せて少し乱暴に頭を撫でた。
「風呂に入らなかったな」
髪は脂でべっとりとして指で梳けない。
「だって、おじさんに洗ってもらうから」
「着替えもしなかったの?」
「持っていかなかった」
すぐに帰るつもりだったという。アドレス帳があったのを思い出して取りに行ったのが理由であった。途中で偶然友達に会ってその娘の家に入り浸っていたのだった。
「その家は親はいるの?」
「うん」
「何も言われなかった?」
「言われた。友達がバイトでいない時に。家へ帰れって」
「それで帰ってきたのか」
「そういうこと」
追い出されたというのに気にもしていない様子である。汚れた前歯が覗いた。ろくに歯も磨いていなかったようだ。

 ソファに座って溜息をつくと首を回してうなだれた。その姿は生活を背負った大人のようである。ほっとしたのかもしれない。コップに注いだ炭酸飲料を一気に飲んでげっぷをして笑った。
「お母さんは、何て言ってた?」
気になるところである。
「いなかった……」
「留守だったのか」
カナは力なく、
「引っ越してた……」
さすがに曇った顔で言った。
「行先はわからないの?」
「わかんない……」
「隣の人とか、誰か知らないのか?」
「訊かなかった。多分知らないと思う。付き合いないから」
「そうか……それは……」
カナの不遇を憐れむより安堵の思いが広がった。
「ここにいていいんだよ。好きなだけいていいんだよ」
頷く目元がとろんとしている。
「疲れただろう」
「いっぱい歩いたから」
「でもそのままじゃ寝られないぞ。シャワーを浴びてきれいにしないと」
「うん……洗ってね」
小首をかしげて甘えた仕草。
「ずっとここにいていい?」
「いいよ。いいよ」
頬が少しこけているように見えた。


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