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飼育
【ロリ 官能小説】

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その(1)-5

 ところが友紀子は待ち合わせ場所に一人で現れた。
「あれ、他の人たちは?」
「他って、あたしだけですよ。誰か呼んだ方がよかったかしら?」
さばけた口調はときめきを生み、一方で心は半信半疑に揺れていた。
「高村さんと二人って、緊張しちゃうな」
口ごもりながら言うと、友紀子は可笑しそうに笑いをこらえていた。
 酒をほどほどに飲み、カラオケで声を張り上げ、夢のような楽しいひとときであった。その日からメールのやり取りが始まり、身構えた山野の気持ちがほぐれていった。
 次の週にも二人きりで会った。別れ際に思い切って、
「また会いたい」と言うと、友紀子は快く応じてくれた。彼は有頂天になった。

 ある日、どこから知ったのか、同僚の一人からある情報がもたらされた。
「お前、S社の受付の高村と付き合ってるんだって?」
とぼけながらも相好が崩れて頭を掻いた。
「付き合うって、カラオケに行っただけだよ」
「よけいなことだけど、やめといた方がいいぜ。相当な女らしいぞ」
話を聞きながら山野の顔色は変わっていたと思う。
「重役の女だったって」
それ以外に部課長クラスばかり七、八人と寝ている。不倫の女王って言われてるらしい。
「金のある相手を狙うらしい。いろいろねだるんだって。いや、これは聞いた話だけどな。噂だから」
押し黙って睨みつける山野のただならぬ様子に圧されたのか、同僚は苦笑を交えながら弁解した。

 ショックだった。初めて耳にする話である。噂の真偽についてはわかるはずもないし、知りたくもなかった。彼は暗く落ち込んで重い思考に沈んでいった。
(信じられない……)
もし噂の遍歴が事実だとしたら疑念が起こってくる。
(なぜ、俺と……)
何の取り柄もない中堅会社のサラリーマンである。花のある一流企業の社員からみれば精彩の上がらない野暮ったい男に映っているだろう。それにどうみても金がないのは明らかである。
(なのに、なぜ……)
彼女から誘ってきたのは、なぜ。……
(からかっているのか?)
声をかけたら目を輝かせて後をついてきた俺を……。

 そう考えた時、潮が引くように気持ちが落ち着きの方向に向かい始めた。
(しょうがないな……)
そう思った。もともと不釣り合いなのだ。それならそれでいい。暇つぶしに付き合ってくれたのだとしても、束の間、楽しければいい。あれだけの美貌をもって受付で輝いているのだから引く手数多なのは当然だろう。何もない方がおかしい。所詮自分とは縁のない女なのだ。……
 卑屈な思いはなかった。むしろさばさばしていた。人にはそれぞれ相応な相手がいるのだ。


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