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飼育
【ロリ 官能小説】

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その(1)-4

 山野が結婚したのは三年前のことだ。そしてわずか二年で破局を迎えた。破局、といえば体裁は保てるが、妻は男をつくって家を出たのである。
 そもそも性格の合わない女だったと、過ぎ去ってから思う。容姿に目が眩んだ結果だと事情を知る者は陰で言っていることだろう。

 別れた友紀子は思っていることをはっきりと言う、自分を押し通す気性の強さを持っていた。何事も決断が早く、山野は度々彼女に翻弄され、言われるままに過ごしてきた。レストランでメニューを決める時も、買い物、旅行の行先など、ほとんど彼女に従ってきた。強引だったのはまちがいないが、彼が優柔不断であったともいえる。考えているうちに友紀子が決めてしまうのである。
「いいじゃない。これにしなさいよ。決まり」
納得できないこともあったが、反対するほどのこともないのでそのままにしていた。
 初めはそれが嬉しくもあった。美貌の友紀子に従うことで満ち足りた気持ちになっていたものだ。その最たるものが結婚である。

 取引先の大手商社の受付をしていた彼女は、仕事柄容姿に優れ、笑顔も言葉遣いも申し分なかった。山野は初めて会った時からひそかに好意を抱いていた。だが声をかけるなどとても出来ない。会社の格も違う。
(手の届く相手ではない……自分とは別の世界の女だ……)
夢のまた夢、憧れの存在として見つめていたのである。

 友紀子と初めて言葉を交わしたのは商社の接待旅行の折である。彼の会社は実質子会社で彼女の会社とは密接な関係にあったから訪れることも多く、顔は見知っていた。
 彼女は接待役として宴会場の受付にいた。
「いつもお世話になっております」
「こちらこそ……」
友紀子は彼が名乗る前に名簿にチェックを入れ、やさしい微笑を湛えながら胸に名札をつけてくれた。仕事とはいえふだんより表情が柔らかだったのは慰安旅行だったからだろう。
 山野は友紀子が自分の名前を知っていてくれたことが嬉しかった。いつもいわゆる顔パスで通っていたので話す機会はなかったのだ。
「受付の、高村さんでしたよね」
「はい、山野さん。今度受付に寄ってくださいね」
(彼女の意識の中に自分がいた)
それだけで動悸が高鳴った。

 とはいえ、自分を見失ったわけではない。やはり彼女は遠い雲の上にいて、個人的にどうこうしようなど考えてもみなかった。
 誘ってきたのは彼女の方からである。自分の何が気に入られたのかわからない。
「今度カラオケでも行きませんか?」
宴会を抜け出してロビーで休んでいると友紀子がやってきて言うのだった。
「いいですね。ぜひ、こんど」
これもお愛想のうちだと受け止めていたのだが、数日後、受付の前で呼び止められた。
「山野さん、今夜、どうですか?」
「え?今夜って?」
「いやだ、もう。忘れたんですか?カラオケ」
「ああ……それは。はい、いつも暇ですから」
応えながら、本当だった驚きと喜びと同時に、おそらく見知らぬ連中も来るだろうから気を遣わなくてはならない煩わしさを考えると複雑な気持ちになった。


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