恭介とマドカ-5
邪な考えに下半身が少し反応してしまい、恭介はそれを誤魔化そうとテーブルの下で足の位置を変えようとした。膝に何かがぶつかる感触がして、マドカが「あっ」と小さな声を上げる。
「ごめん、当たった?」
「いえ、大丈夫です…はい」
「ここ、テーブル狭いからさ。どうしても当たっちゃうよね」
苦笑いで詫びてみせた恭介に、マドカも「そうですね」と笑顔で応じる。
「ちょっとゴメンね。足組み替えるから、また当たるかも」
「はい、大丈夫です。当たっても…」
マドカの返答に乗じて、恭介は今度は故意にマドカの脚に触れるようにテーブルの下で足を動かした。ふくらはぎに柔らかい感触を感じて、それをなぞるようにすり寄せる。当たった、というのとは明らかに違う接触に、マドカが「あっ」と小さな声を上げる。
マドカの微かな反応に気づかない振りをして、恭介は今度は両方の足でマドカのふくらはぎを挟みこむ。
「ひょっとして、脚、当たってる?」
白々しく聞いてみた。マドカはその問いに、声を出さずに小さく頷いて応えた。
拒絶する権利はマドカの側にある。本当に嫌ならば、ただ一言「いや」といえばいいのだ。恭介はそう考えながら、テーブルの下でマドカの脚を弄ぶ。
恭介の振る舞いに、マドカは焦りとも困惑ともつかぬ表情を浮かべ、テーブルの上に置かれたスマホの画面と、薄笑いを浮かべた恭介の瞳との間で視線を交互に漂わせた。
主導権を握ったと確信した恭介は、マドカに対し満足げに微笑んでみせる。
「あ、あの…っ」
根負けしたのか、マドカが声を上げる。
「何?」
微笑みと、挟み込んだ脚の姿勢を崩さぬまま、恭介が返す。
「えっと…。デザート、頼んでもいいですか」
「なあんだ…。いいよ、好きなの頼んで」
結局、最後までマドカは抗議の声を上げなかった。それで十分だ、と恭介は納得し、挟み込んでいたマドカの脚を解放してやる。
テーブル下の状況の変化にほっとしたのか、メニューをのぞき込むマドカの表情に笑みが戻り始める。
「恭介さんは、なにか頼みます?」
「いや、俺は酒の方がいいな…。そっちはもう決まった?決まったなら店員、呼んでいい?」
「えっと、はい…。大丈夫です」
恭介が店員を呼ぶコールボタンを押すと、ほとんど間を置かずに伝票を抱えた店員が現れた。
「オーダーいい?俺はバーボン…さっきと同じのをもうひとつと、そっちは…」
恭介は空になったグラスを店員に見せ、マドカへと注文を促す。
「この…マンゴーのジェラートで」
店員の視線が注文を告げるマドカへと移動したタイミングにあわせ、恭介は再びテーブルの下でマドカのふくらはぎに脚を寄せた。
「ひゃっ!」
完全に不意をつかれて、マドカが驚きの声を上げる。事情がわからぬ店員が「他に何か、ご注文ですか?」と聞き返してきた。
「いえ、大丈夫です。何も…」
そう答えたマドカに、店員は一瞬だけ訝しげな表情を浮かべ、恭介の方に向き直るとオーダーの復唱を始めた。
「では、フォアローゼスのロックをダブルがお一つと、マンゴーのジェラートですね。以上でよろしかったでしょうか」
「オッケー。それと、この店トイレってどこ?」
「お手洗いでしたら、この通路を左に行った突き当たりになります」
「了解、ありがと」
素知らぬ顔で店員とやりとりを交わしながらも、恭介の脚はマドカのふくらはぎを弄び続けた。その間、マドカは何も言えずにうつむいたままだ。
「ごめんね。俺、ちょっとトイレ」
言って、テーブルの下でマドカの脚を解放し、恭介が立ち上がる。
「あ、はい…。大丈夫、です…」
マドカの唇からようやくこぼれ出た細い返事に、恭介は満足げな表情でトイレへと向かった。