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『清子と、赤い糸』
【幼馴染 官能小説】

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『清子と、赤い糸』-9


「まーちゃん、どうや“一軍”は?」
「清子みたいな選手が、いっぱいいるな」
 岡崎の言い様は、“清子なら、一軍でも充分通用する”と言っているようなもので、選手の実力を測る基準が、自分になっていることに、清子は我がことながら苦笑した。
「女子マネージャーも二人いた」
「む……」
 “女子”と聞いて、清子は少し、もやもやしたものが胸に湧いた。そういえば、“一軍”には近隣のリトル・リーグでも話題になる“二人のマドンナ”がいることを、清子は思い出した。
「ま、まーちゃんは、どっちがええんや?」
「? なんのことだ?」
「えと、その、二人のうち、どっちが好みなんやろな、と」
 聞くつもりはなかったのに、口が自然に動いていた。
「あんまり、考えたことはないな」
「そ、そうなんや」
 岡崎の答えに、安堵している自分を見つけて、清子の胸のモヤモヤは晴れたが、今度は逆に、ちくりと刺してくる不可思議な痛みを憶えた。“あんまり、考えたことはない”というその中に、自分も含まれているかもしれないと、思ってしまったからだ。
(なんや、これ、なんか、ウチ、ヘンやな……)
 岡崎が“一軍”に行ってから、こういうことがよくある。何故か美依子にも相談できなくて、清子は、自分の身に何が起きているのか、戸惑うばかりだった。もっとも、美依子が今の清子の状態を知ったとしたら、
『きよちゃん、岡崎クンのこと、好きになったんやね』
 と、言われて、生暖かく微笑まれたことだろう。実際、美依子は既に、清子の胸に芽生えた感情をそれと察知していて、清子の見えない場所で彼女を見守りながら、今も生暖かく微笑んでいる。
 もっと言えば、美依子だけでなくて、クラス全体がそう思っていることを、肝心の清子本人が、気がついていない。まさに、“知らぬは本人ばかりなり”だったのだ。
「ほんじゃ、まーちゃん。気をつけて、いってきてな」
「清子もはやく、“一軍”に来れるといいのにな」
「監督さんも言うとったやろ? まーちゃんのがんばり次第やって」
「そうだな。がんばるよ、清子」
「う、うん」
 自分のためにも“がんばる”と、はっきり言ってくれる岡崎に対して、清子はまた、胸の奥にざわめきを感じ、“一軍”の専用練習場に向かうために、岡崎が乗ったバスが見えなくなるまで、それをずっと見送っていた。
 その後、バス停から走って“二軍”の練習場へと姿を現した清子は、いつもだったら晴子だけが先にベンチで待っているそこに、既に監督の星野も来ていることに気がついて、意外な思いを抱きつつ、帽子を取って挨拶をした。
「清子、チャンスがきたで」
 星野は、清子の姿を見るなり、すぐにそれを伝えたかったと言わんばかりに、切り出してきた。
「今週の土曜日にな、“一軍”と紅白戦をすることになったんや。兄やんがな、“二軍に、活きのいいピッチャーがおるそうやないか”って、そう言ってきたんで、“試合してみんか”って、聞いてみたら、“そうしようや”って話になったんやわ」
 ちなみに“一軍”の監督を務めているのは、晴子の実兄で、星野にとっては義理の兄にもあたり、高校・大学を共に同じ野球部の先輩・後輩として過ごした仲でもあるそうだ。蛇足ながら、甲子園に出場したこともある。
「岡崎、ショートのレギュラーやったな」
「一番を打つようにもなったいうてました」
「上に行って、ひと月もたっとらんのに、すごいやっちゃな」
 “一軍”にあがるなり、並み居る上級生にもその実力を認められ、岡崎は一番・遊撃手のポジションを手に入れていた。“二軍”から突如、頭角を現してきた選手に対して、それをすぐに受け入れる“一軍”の面々は、さすがに“世界大会”で結果を残してきただけの、上下関係に縛られない“実力主義”に徹底したところがある。
「まあ、だから、兄やんも“試合してみよう”って気になったんやろな」
 星野が以前伝えたように、岡崎はしきりに、清子のことを宣伝していたのだろう。そういう律儀なところも、“一軍”で受け入れられた理由なのかもしれない。
「“一軍”相手に、ウチ、投げられるんや……」
 清子は、三日後の試合のマウンドに立つ自分を想像して、今から武者震いを始めていた。


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