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『清子と、赤い糸』
【幼馴染 官能小説】

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『清子と、赤い糸』-8


「まーちゃん、練習行こ」
「うん、清子」
 HRが終わった後の、恒例となった清子と岡崎の声であった。清子は岡崎のことを、“まーちゃん”と呼ぶようになっていたし、岡崎は清子のことを名前で呼びつけるようになっていた。
「河川敷まで、競争やで!」
「ああ!」
 ランドセルを担ぎ、練習着や道具の入った大きなバッグを片手にして、二人は脱兎のごとく駆け出していた。“廊下は走ったらあかんで!”と言う声が二人にかかるのも、良く見た光景になっていた。
「こんにちは、岡崎クン。また、一番乗りやね」
「こんにちは、晴子さん」
 河川敷の練習場に辿りつくと、晴子が既にベンチに座っていて、いつもと同じようにボールの手入れをしていた。
「ゼェゼエ……ハ、ハルさん、ま、まい、ど……」
「まいど、きよちゃん。二番は、おなじみやね」
「く、くぅ……」
 河川敷の練習場までの“中距離ダッシュ”で、岡崎に勝てた試しはない。それでも、清子は岡崎に勝負を挑み続けていた。
 時に、岡崎に常に敗れているため、清子は気づいていないが、二人が通う小学校からこの練習場まで、1km程度の距離になるのだが、そのタイムは日を追うごとに速くなっている。
「な、なんか、清子の球、えらい速くなっとらんか?」
「それに、コントロールもようなっとるわ」
 毎日の“中距離ダッシュ”の影響か、フリー打撃の練習のために清子がマウンドに立つと、このごろ、チームの中で力のある打者であっても、空振りをすることが多くなっていた。連日のダッシュで、足腰が鍛えられ、安定した“重心の移動”が、清子の投げるストレートに、男子でも容易に打ち返せない球威とコントロールを生み出していたのだ。

 キィン!

「ぐぅっ……!」
「それでも、まー坊のやつは、あの清子の球を軽々と打ちよる」
「まーちゃん、もう一回、もう一回勝負や!!」
「おう!」
「あの二人、どんどん上手くなってっとるなぁ」
 そして、いつのまにか、清子の球をまともに弾き出せるのは、このチームの中にあって、岡崎だけになっていた。
「岡崎、話があるんや」
「?」
 そんな日々が続いたある練習の最中、岡崎は監督の星野に呼び出された。フリー打撃の投手役を終えて、晴子に手伝ってもらいながらアイシングをしつつ、ベンチで休憩をしていた清子の脇で、二人は会話を始めていた。
「お前さんを“一軍”にやろうと思うんや」
「!」
 実は、このリトル・リーグのチームは、“二軍制”を敷いており、中学生も交えた“一軍”のチームは、専用の練習場を持っている。そして、清子と岡崎がいるこのチームは、独立したチームではあるが“二軍”の意味も持っていた。
 岡崎を、“一軍”のチームへ送ろうというのは、よほどの才能を感じていたからであろう。清子としても、彼が“一軍”に行くというのは、不思議なことではないと思う。
(まーちゃんが“一軍”にいく…)
 それは当然と思う反面、言い知れない寂しさが清子の中に湧き上ってきた。この“二軍”のチームで、一緒に野球ができなくなるからだ。
「監督、清子は?」
「清子は……」
 言いかけて、星野は口をつぐんだ。“女やから”と言いかけたのだろうと、ベンチで聞き耳を立てている清子は察する。
「あれだけ投げられるのに、清子は“一軍”に行けないんですか?」
(まーちゃん……)
 確かに最近、この“二軍”の中では岡崎以外に打たれることは少なくなっている。“一軍”のレベルは、もっと高いのだろうが、どれだけのものか、対戦をして見たいと思うようにもなっていた。
「……お前さん次第やな」
「?」
「“一軍”に行って、レギュラーを掴んで、“二軍に、こんな凄い選手がいる”って、宣伝するんや。そうすりゃ、兄やん…上の監督も、清子のことを気にするやろ」
「………」
 ふと、岡崎と視線が合った。自分が聞き耳を立てていることに、彼は気づいていたのだろう。
 それにしても、岡崎が“一軍”に行くかどうかの話になっているのに、自分自身のことに話題が摩り替わっていると言うのは、なんとも不思議であった。
(まーちゃん……)
 岡崎がそこまで、自分のことを気にかけてくれているとわかって、清子はとても、胸が熱くなった。
 それは、今まで感じたことのない、甘くとも酸っぱさを伴う、不可思議な感情で、それを“恋”という想いの始まりが生み出すものだと知るには、まだ、清子は幼さの残る少女であった。


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