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『清子と、赤い糸』
【幼馴染 官能小説】

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『清子と、赤い糸』-7

(まあ、最初はとんでもないところにいくやろな)
 握り方も知らない素人だったのだから、距離感やボールのリリースの感触など、ソフトボール投げとは全く違うので、暴投するのは当たり前、と、そう軽く考えていた矢先であった。

 びゅんっ…

「へっ?」

 スパァン!

「!?」
 胸元に構えていたグラブの中に、微動だにせずにボールが収まった。それも、相当に小気味のいい音を発てて…。
「ご、ごめん。軽くって、言ってたのに」
 思いのほか音が良く鳴ったので、岡崎は少し慌てた様子を見せた。彼はこれでも、“軽く投げた”つもりらしい。
「あ、え、ええんよ。いまので、ええ」
「そうなのか?」
「そうや。ナイスボール、やで」
「よかった」
 清子の言葉を受けて、安堵の表情を岡崎は見せていた。
(何や、今の球……。ホンマに、野球、やったことないんか?)
 グラブに残る感触は、まだ消えていない。それもあってか、清子は少し考えを乱したまま、岡崎にボールを投げ返した。

 びゅん……!

(あ、やばっ……!)
 先輩たちに投げるような、スナップを十分に利かせたスローイングになってしまい、勢いのあるボールが岡崎に向かって飛んでいく。
 硬式なので、キャッチングに慣れていない素人が、グラブで取り損なって身体に当ててしまったら、事故に繋がる。もし、それが“胸”だとしたら、まだ筋肉も骨格も鍛えきっていない小学生の体では、呼吸困難を伴う大事故にもなりかねない。

 スパァン!

「!!」
 最悪の事態が頭をよぎった清子だが、岡崎は事も無げに、そのボールをグラブでしっかり捕っていた。
「うわあ、いい音するなぁ。すごいボールだなぁ!」
 グラブを鳴らしたその音に、はしゃいでいる風でさえある。
「いくよ、清子さん!」
 すぐさまボールを右手に持ち替えて、岡崎は返球をしてきた。

 スパァン!

「………」
 清子のグラブを、初球と同じように高らかと鳴らしたそれは、岡崎の投げているボールが偶然によるものではないことを示している。

 スパァン!

「すごい、すごい!」
 清子の投げるボールをしっかりと掴んで、何度もはしゃぐその様子を見れば、素人だというのに球筋をしっかりと見極めて、初めてグラブを持ったはずなのに、まるで自分の掌のようにそれを扱っていることが分かる。
 身体の一挙一投の全てに、センスを感じさせる、岡崎のキャッチボールであった。
「これぐらいに、しとこか」
「うん、わかった」
 五十球ほどもやり取りをしただろうか。ただの一球も逸れることなく、零すことなく、息のあったキャッチ・ボールを二人は繰り返して、終わりにした。
「すごいもんやな」
「あっ、監督さん。……って、なんや、みんなそろって」
 いつのまにか、ギャラリーができていた。チームの監督を務める星野を筆頭に、メンバーたちが揃って二人のキャッチ・ボールを眺めていたらしい。
「こんにちは」
 岡崎は、自分が見られていたということも意に介さないように、初めて見る面々にまずは、帽子を取って頭を下げていた。
「名前は?」
「岡崎まもるです」
「野球の経験はあるんか?」
「ありません」
 “まじかいな?”“あんな球、放るのにか?”と言わんばかりのざわめきが、ギャラリーから起こる。それぐらい、岡崎の投げていたボールは、素人とはとても思えないほど、威力のあるものだったのだ。
「こいつは、相当のタマやで」
 “原石を見つけた”とばかりに、星野は無精ひげの目立つ顎に手をやりながら、にやりと笑う。
「清子、ようナンパしてきたな」
「だ、だから、ちゃうって、いうてますやん!」
 おそらくは向こうのベンチで微笑んでいる晴子にそう聞かされていたのだろうが、清子にとっては甚だいい迷惑であった。


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