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惚れ薬
【その他 官能小説】

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秘薬試行-1

 翌朝出勤すると、予想通り安田の罵声を浴びて午前中は散々だった。追いたてられながら仕上げた見積もりを届け、その足で得意先を回り、会社に戻ったのは二時過ぎである。昼飯も食べていなかった。幸い先方の感触はよく、何とかうまく運びそうなのでほっとしたが、小突くように続いた安田の厭味な言葉の数々がべたべたとまとわりついて食欲も失せてしまった。

 お茶でも飲もうと給湯室に行くと、休憩時間でもないのに相良江理が脚を組んで煙草を吸っていた。俺の顔を見ると、
「お疲れさま」
煙を吐き出しながら言った。
「ほんとに疲れたよ」
出勤そうそう安田にやいのやいの言われていたのを江里も知っている。
「しつこかったわね」
「ほんと、うんざり。係長、どこかでかけたの?」
「部長とどっか行ったみたい。よく知らない」
俺が湯呑を探していると、
「お茶淹れるわよ」
煙草を揉み消して立ち上がった。
「悪いね」
 彼女が背を向けたと同時にふと江里の湯呑が目に入った。
(!……)
ポケットの薬を素早く取り出すとスポイトで適当に注いだ。咄嗟の行動であった。指がふるえていたので正確な分量かどうかわからない。
 実は昼間飲ませることは考えていなかった。夕方にチャンスを窺い、駄目なら飲みに誘おうと思っていたのだ。それが湯呑を見たとたんに体が動いてしまった。

「お茶っ葉、替えるね」
「あ、ありがとう」
あたふたと椅子に掛けてむっちりした尻を眺めた。改めて間近で見ると見事な肉付きである。太ももへと流れる曲線がたまらない。
(顔を埋めたい…)

 だが、まだ二時半である。もし江里が欲情したとしてもどうしようもない。三時頃効き始めたとして、六時間とすると九時くらいまで効力は持続することになる。退社後にホテルへ行くことは可能ではあるが。……
 俺は半信半疑の気持ちに揺れながらも下半身の疼きを感じていた。
(まあ、いい。とりあえずどんな変化が起きるのか、それがわかれば……)

 江里の淹れてくれたお茶を飲みながら思いつくまま無駄話をつづけた。江里が仕事場に戻りそうな素ぶりを見せたからである。まだお茶を飲んでいない。何とか引き延ばして飲ませなければ……。
 「たまには愚痴を聞いてくれよ。せめてそのお茶を飲む間だけでもいいからさ」
もともと仕事熱心な女ではない。
「じゃあ、もう一服しちゃおうかな」
そう言って煙草を取り出した。
「そうだよ。適当に息抜きしなきゃ」
「そうよね。安い給料で」
そして間もなく、江里は会話の合間にぬるくなったお茶を飲み干した。
(やった…)
だが、
(効くのか?…まやかし物か…。まさか毒性はないだろうな…)
喉元の動きを見つめながら、妙な緊張と昂奮が湧き起こってきた。

 事務所に戻って、
(さあ、どうなるか…)
彼女の様子をじっくり観察するべく書類の隙間から覗った。
 ところが急に電話が相次ぎ、応対に追いまくられてそれどころではなくなってしまった。営業が出払っている時間帯なので商品に関することはことごとく俺に回されてくるのだ。在庫確認やクレームを処理して、さらに担当者ごとにメモまで作らなければならない。
(大仕事を終えたというのに、この雑用だ……)
今日はついていない…。いい加減うんざりして受話器を置くと、背後に気配を感じた。
(!……)
振り向くと江里が立っていた。微笑んでいる。
「忙しそうね。お伝いしましょうか」
(効いている…)
そう思った。胸が高鳴った。
(まちがいない…)
江里がこんなやさしい物言いをしたことはない。何よりその瞳は紛れもなく好意の潤いに満ちて妖しく輝いている。
「ありがとう。でも営業関係のことばかりだから、何とかやるよ」
そう言っても立ち去ろうとはせず、何か言いたそうにもじもじしている。
「ふふ…」
濡れた唇が艶めかしい。
「今夜、飲みに行かないか?」
俺は声を潜めて言った。
「ほんと?嬉しい。行きます。初めて誘ってくれた」
恥ずかしそうに身をくねらせて腰を振った。
(これは、本物だ…)
薬の効き目に驚きながら、制服に被われた裸体を想像してグンと勃起した。
 しかし驚くのはまだ序ノ口であった。



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