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溺れる爪痕
【ファンタジー 官能小説】

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幻影-10

 どの段階でこの女はこうなったのだろう。

狂喜の沙汰で得たものは、アズールへの呪縛と寄生。彼が譫言にでも呟いてくれたなら、自分はすぐにでもこの女を葬ってやれるのに。

残念なことに今の自分がそれを行使する理由は一つもない。

「心外だな。俺は例え愛していたって殺されたくなんかないよ?それに優しい彼はきっと君を飼い殺すさ。寿命までね」

「そうかしら?」

暗い地下で牢に入れるでもなく拘束された女は、この場所から彼を思い見詰め続けている。

「貴女にはあの人の狂気が見えないのね。貴女なら理解してくれそうだと思ったのに、残念だわ」

「何とでも言えばいいよ」

「ふふ。ねえ、彼の運んでくる量じゃ物足りないの。ノア、私を壊して」

「そう言って君が壊れたことなんかないじゃない。アズールの手解きだけじゃ満足出来ない?」

「満足してるわ。彼の、あの孤独や苛立ち、罪悪感が打ち付けられる度に愛しくて狂いそうになる」

何を思い出したのか、頬を恍惚に染めたイルに吐き気が込み上げる。

壊そうと、狂わせようと、何度企てたことか。

端から狂っているこの女に望み通りの快楽を与えたところで、尽く無に帰することは目に見えている。

規定量など有に超える濃度の血液を浴びせてやったこともあれば、気を失っても血を流しても構わず繰り返し突き上げてやったことだってある。

それでも彼女は壊れず、その度に変わらぬ狂喜を吹き返すのだ。


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