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先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

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一章 関係-9

   関係/6
 私は女への怒りを胸に抱きつつ、町(村)への道を歩み続けていたのだが、後ろからそれに続くような足音も付いてきていた。
 私はそれすらも腹立たしく、立ち止まってあの犬に向き直る。犬は銀之助と同じような距離を保っており、それが余計に腹立たしく感じた。
「おい、犬。いいか、これ以上銀之助の真似をしようというならば、私は貴様をくびり殺すぞ」
 犬は首を傾げた。
「もう一度言うぞ、犬。これ以上銀之助の真似をするなと言ったのだ! くびり殺すぞ!」
 犬は銀之助と似ている金色の瞳を一度瞬かせ、笑うように「わふっ」と鳴き、霧の如く消えていった。
「……くだらん。くだらなすぎる」
 銀之助はどこにいるのだろうか。どうせ元々野良なのだから、問題ないだろうが、少し心配である。
 野生の本能というものなのか。あの物の怪がいるせいで、隠れているのかもしれない。
「銀之助!」
 一応声を掛けてみる。
「ふむ、さすがに返事はせぬか」
 大丈夫だ。奴は勝手に帰ってくるだろう。そう思った矢先、聞き慣れた足音が聞こえた。私にはそれがすぐに銀之助であることに気付いた。
 銀之助は私に駆け寄ってくるような感動的な演出をせず、いつもの距離に到達すると、それ以上私に近づこうとはしなかった。
 私はその一定の距離から銀之助を見る。偽者ではなく、確かに本物の銀之助である。
「銀之助」
 銀之助は耳をぴんと立てこちらに向けた。
「私はこれから羽田さんの家へとまた向かう。時間も中々の頃合いだ。おそらく晩酌の時間になる」
 この距離からでも、銀之助の表情が輝いたのを私は確かに見た。まぁ所詮犬であるのだし、欲望に忠実なのは仕方のないことである。
「では、銀之助よ。向かうか」
 銀之助は頷くように首を縦に振り、私の後に続く。
 やはり銀之助の足音はこうでなくてはいけない。
 やれやれ、どうやら私は大分銀之助に毒されてしまっているようだ。
 私とあの女がいた川から羽田さんの家に到着する頃には、辺りは既に暗くなり始めていた。一応懐中時計を取り出して時間を確認する。先程時間を確認してから、まだ一時間も経っておらず、ようやっと十七時を指す前であった。
「秋の夜長とはよく言ったものだ」
 まだ完全に秋にはなっていないのに、最近はすぐに日が暮れて夜が訪れてしまう。特に、このような田舎であると太陽とともに生活しているようなもので、必然的に活動時間は短くなってくる。そのため、羽田さんや他の農家の方々も、最近は仕事を早めに切り上げて、雑談をしているのをよく見かける。
 おそらく今日もその例に漏れず、羽田さんの家には人が集まっているであろう。
 だがしかし、人生とはいつも通り≠ノはいかないものだ。二十七年生きて、何故そのようなことを忘れていたかは甚だ理解し難いが、私はその考えを痛感することとなる。
「あれは……」
 羽田さんの家の前で、ここ三ヶ月程度で見慣れたジープが停まっていた。ナンバーを見ても、おそらく玉城獣医師のものであろう。
「なんということか、あの狐獣医師がいるのか」
 私は一気に気分が盛り下がる。あの狐がいるというだけで、私は羽田さんの家に行くのすら躊躇われた。
 しかし、ここで私が引いてしまっては、あの狐獣医師に負けてしまうことを認めたくなかった。
「いくぞ、銀之助。ここで引いてはあの獣医師に負けた気がして、癪に障る」
 私は羽田さんの家のチャイムを鳴らした。
「羽田さん……」
「先生かい?」と羽田さんは私が名乗る前に答えた。私はそれに「ははっ」と笑った。
 いつの間にか、晩飯の時間帯に来るのは私であるという固定概念が生まれているらしい。
「羽田さん。申し訳ありませんがご飯を頂きに来ました」
「おいでよ、先生。玉城さんもいるよ」
 やはり玉城獣医師もいるようだった。私は「関係ありません。お酒も飲みたいですし」と言うと、羽田さんは笑って「じゃあおいでよ」と言ってくれた。
 銀之助は瞳を輝かせていた。それもそうであろう。おそらく奥様が帰っているのだし、きっと美味しい料理が出てくることだろう。


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