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先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

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一章 関係-10

 玄関を通り、いつも私が食事をご馳走になる居間に向かった。あの狐目の獣医師は私を見ると、口角を僅かに上げて「どーも」と言った。
「あぁ、やっぱりいらっしゃいましたか、玉城獣医師」
 私よりも結構年上なのだが、どうしてもこの男はやはり好きになれない。
「おやおや、変人小説家さんとそれに飼われる可哀想な銀之助ちゃんですね」
 この男……やはり好かぬ!
「玉城獣医師。あなたは何故いつも私に喧嘩を売るのですか?」
 私は座布団に座りながら玉城獣医師に言った。
「いえいえ、あなたを見ているとどうしても、ね」
 一体なんだというのだ、この男は。
「ははは! いいじゃないか先生。愛されてる証拠だよ」
 羽田さんは見当違いな意見を述べるが、私は突っ込めるような立場ではないので、口を噤んだ。
「先生、飲んでいくだろ? 今日は蟹を玉城さんが持ってきてくれてね」そう言いながら、羽田さんはキッチンへと向かった。
「蟹に罪はない。おいしくいただくことにします」
 私は羽田さんの背中に手を合わせて笑顔を向ける。銀之助は金色の瞳を輝かせながら、キッチンへと向かっていく。
 さすが食欲に忠実な我が家の銀之助。食べ物が出るとわかると、奴はすぐにキッチンへと歩を進ませた。誰よりも早く食べるために、奴が得た知識の一つである。
「銀之助、そこに座っていなさい」
 銀之助は、一応上品ということでこの町(村)では通っているので、少しでもこいつのイメージというものを保っておきかった。
「ところで万里さん」
 玉城獣医師は日本酒をお猪口で飲みながら私に話しかけた。話し方から判断するに、少しだけ真面目そうに感じた。
「なんですか?」
 羽田さんの奥様がキッチンから缶ビールを出して私に手渡す。私は「ありがとうございます」と深々と頭を下げて、それを受け取る。銀之助は奥様にとてとてと付いて来た。だが、食べ物を渡したわけではないとわかると、しょんぼりと頭を垂れた。
「すみません、何せ犬なのもので」
 私が奥様にさっきと違う意味で頭を下げると、奥様はにこやかに笑って、銀之助の頭を撫でた。
「いいのよ、銀之助ちゃん」
 奥様は銀之助の頭を愛しそうに撫でた。銀之助は気持ちよさそうに奥様の手に更に頭を押し当てて、「もっと撫でろ」とでも言いたげだ。
「で、何ですか?」
 私は缶ビールのプルタブを開ける。銀之助はその音に少々驚いて、身を引いた。銀之助は何故かプルタブが苦手であり、特に炭酸が入っているようなものは、プシュッっという音が大きいので、特に苦手としているらしい。
「……ふむ」
 玉城獣医師は銀之助をちらりと見て、また私を見た。
「ところで、万里さん」
「一体何なのですか?」
 私はビールを一口飲んで、玉城獣医師を睨み付けた。
「何故銀之助という名前を付けたのですか?」
「いや、何故と言われても」
 あまりにも唐突な質問である。そういえば玉城獣医師は銀之助と名付けた時も首を傾げていたな。
「銀之助という名前がそんなに気に入りませんかね?」
 私は玉城獣医師に問いかける。そのタイミングで羽田さんが蟹を持ってきた。
「ほらよ、良い茹で具合だろ?」
 羽田さんが持ってきたのはタラバ蟹だった。
 ほほぅ。この狐獣医師、中々良いものを持ってくるじゃあないか。
「ありがとうございます。羽田さん」
 私は、羽田さんに感謝を述べる。もちろん、感謝をする相手が違うと言うことを、重々承知だ。
「私に感謝をすべきでしょう?」
 そう言いながら玉城獣医師は早速、蟹の足を一本折り、身をほじり出し始めた。
「で、銀之助の名前に関してでしたっけ?」
 私も玉城獣医師と同じように足を一本折って、実をほじり出す事にした。
「そうだよ、先生。なんで銀之助なんだい?」
 やけに羽田さんの声が高いように感じるのは、きっと気のせいではない。おそらく、私が来る前にすでに酒が入っていたのだろう。


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