投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

先生と銀之助の最初へ 先生と銀之助 19 先生と銀之助 21 先生と銀之助の最後へ

一章 関係-14

「銀之助。お前が男であるのなら、食欲旺盛なのは目を瞑れるが、女だというのならば、多少は気にかけなさい」
「私を人間と一緒にするでない」
 銀之助は「ほっほっほっ」とどこかの貴族のように笑う。
「しかし、万里 凪よ。中々肝が据わっておるな。私のような者を前に、堂々と話せるのはお主が初めてであるぞ」
 私は立ち止まり、銀之助に振り向く。
「さようか。お前とは何度か会っておるしな。それに薄々そうではないかと考えておいたのだ。それと銀之助、私のことは主≠ニ呼べ」
 銀之助はこちらを金色の瞳で一睨みすると、何故か慈しむように微笑んだ。
「……ふん。まぁ良い。人間に膝を付いてやるのも、一興であろうに」
 銀之助は言葉通り、私の前で片膝を付く。
「では主殿。これから私、銀之助は適当にあなた様に従いましょう」
 適当に、と言うところがこいつらしく、私は溢れそうな笑みを噛み殺した。
「なんじゃ?」
 不服そうにこちらを睨み付ける銀之助が、これまた面白く、遂に私は笑い出してしまった。
「くっくっくっ。すまぬ。いやなに、全くお前らしくてな」
 銀之助は立ち上がり、「くだらぬ」と悪態を付いて、ふと空の月を見た。
 そういえば、こやつに最初に会ったときも月を見ていた。狼男は、月を見て変身をするという創作物もあったが、いやはやどうして、もしかして本当かも知れぬ。
「銀之助、月が好きか?」
 私がそう尋ねると、銀之助からは先程のような親しみやすい雰囲気は消えていた。奴はゆっくりと私を見た。金色の瞳は憎悪一色に染まり、その感情をこちらに押し付けるように輝いている。
「月は嫌いじゃ。私が居なければ光を放つことも叶わぬ。醜くく、傲慢で、残虐な存在だ。主殿よ、覚えておけ。私の前で、二度とそのようなことを口走るな」
 銀之助の放った言葉は、炎のように私を焼いていく。体の節々が恐怖からちりちりと熱を持ち出し始める。だが、主≠ェここで身を引いては、今後の威厳など保てる訳がなかった。
 私は、自身が抱く恐怖すらその炎で焼き尽くし、毅然と銀之助に向き合った。
「そうか。ならば、今後お前に月についての良し悪しは聞かぬ。それでよかろう?」
 銀之助の憎悪が目に見えて鎮火されていく。
「ほほほ、やはり主殿は愉快よのう」
「銀之助が月嫌いというのはよくわかった。私も今後も気を付ける。すまぬな」
 謝った途端、何故か気恥ずかしくなり私は奴に背を向けた。
「行くぞ、銀之助。私は酒のせいで頭が痛む。さっさと眠りたい」
「その前に、一つだけ言いたい事がある」
「なんだ?」
 私は再度歩を進めながら銀之助に言う。
「我が城にいるとき、この姿で良いだろうか? 如何せん、あの姿で本を読むのは難しいのだ」
「……くく」
 あぁ、どう転んでもこやつは銀之助である。確かに、犬の姿では本は読み辛かろうに。しかも、あのような小さな家を城≠ニ呼ぶか。初めてこやつを愛おしく思えてしまった。私の人生の中で、一生の不覚であろう。
「かまわぬ。しかしだ、人には見られるな。それだけ守れば、城≠ナは好きにしろ。勿論、常識の範囲内であるからな」
「人間の常識など知らぬ」
「ならば学べ」
 そうして、この面妖な物の怪と私の生活は、新たな始まりを告げたのだった。


先生と銀之助の最初へ 先生と銀之助 19 先生と銀之助 21 先生と銀之助の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前