一章 関係-7
関係/■□■
夢を見た。
夢、というには、少々違うかもしれない。これは、昔にあったことだ。それも私がここにくる数年前の話である。
私にも、恋人と言える存在がいたときだ。
その恋人の名は千草 那美《ちぐさ なみ》。私がまだ専門学校に通っているときに、友人の紹介で出会った女性だ。
私はその女性を一目見て気に入ってしまった。
彼女は、存在そのものが儚かった。繊細なガラス細工のようで、触れてしまえばすぐに壊れてしまいそうな、そのような脆い存在。
見た目は悪くはなく、大きな黒い瞳と、肩にかかる程度の長さである黒髪がとても美しかった。
彼女も彼女で私を気に入ってくれたらしく、私と二人で出掛けても退屈そうにはしなかった。
確か、三ヶ月くらい経ってからだったろうか。私と彼女は付き合うことになったはずだ。
互いに無理のない関係を求め、束縛せず、深く介入せず、それでも互いを知るべく、互いを貪りあった。
そんな彼女が、私にとって大切な存在になるのには時間がかからなかった。
だがしかし、私が最初に抱いた印象通り、彼女は儚く脆い存在だった。
そんな彼女は、今でも私の心の深い深い所に呪いを残し、生き続けている。
アナタヲ、ユルサナイカラ。
彼女の呪いを、今でも私はよく思い出せる。
ナギ、アナタヲ、ユルサナイカラ。
「起きるのだ」
確か、起きるのだ、などとは言わなかったはずだったが。