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先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

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一章 関係-5

   関係/4
 私が次に目を覚ましたとき、私は寝室の布団で眠っていた。
夢でも見たのだろうか。昨日は謎の女と話していた気がする。確か縁側で会話をしていたはずなのにも関わらず、何故私は寝室に戻って眠っていたのだろう。
「花……は?」
 あの花はどこにあるのだろうか。あるはずないとわかっていても探してしまう。
 だがやはり、そのような花の匂いはしなかった。私は、またもあの花を見ることができなかったと嘆息しながら、銀之助の名を呼んだ。
「ギン」
 寝室を見回してみたが、銀之助の姿は見当たらなかった。
「銀之助」
 もう一度呼ぶと、とてとてと可愛らしい音を立てながら、銀之助は餌箱を咥えながら寝室へとやってきた。
「いたか。もう飯の時間か?」
 壁にかけてある時計を見ると、十一時であった。まぁ、私にとっては早く起きた部類に入るであろう。
「銀之助。お前、昨日女を見なかったか? お前と似たような髪色だったはずだ」
 銀之助は、「何を言っておるのだ、貴様は。早く飯をよこせ」と金色の瞳で語る。
 いいや、待て。銀之助と同じような髪の色をしていて、尚且つ同じ金色の瞳を、あの女は有してはおらんかったか? 待て待て、ということはだ。あの女は、もしかして……だがしかし、銀之助はオスであるはずでは?
「おい、銀之助。お前がもしかしてあの女か?」
 銀之助は「いいから飯をよこせ」と、遂には怒気を孕ませている。
「銀之助。お前はあの女に化けられるのか?」
 銀之助は遂には「わん!」と一つ大きく鳴いた。その泣き声は一瞬でこの家全体を支配するようなものだった。
 だがそのような支配の力など、飼い主(自称)には通用するようなことはなく、銀之助が再度声を上げたことに感動し、私は奴の要望など意にも留めなかった。
「おお、銀之助。お主やはり喋れるのだな」
 ぐるる、と遂に銀之助は唸り声をあげ始めた。
「すまぬ。お前がまた喋るとは思ってもいなかったのでな。今用意する」
 私は自分の飯を用意せずに、先に銀之助の飯を用意し始める。さすがに歳を取った私は、朝食を食べるには少々胃が頼りない。
 銀之助の飯をいつもの机に置くと、銀之助はこちらを一瞥し、「何故もっと早く出さぬのだ」とこちらに抗議しているようだった。
「銀之助、お前は人間に化けられるのか?」
 飯を食い続ける銀之助を横目に、私はため息をついた。銀之助の頭を撫でようとするが、金色の瞳が拒否を示しており、私はまたため息をついた。
「銀之助、このあと私は羽田さんのところに向かう。どうするか決めておけ」
 どうせ付いてくるだろうが、私は銀之助に言っておく。
 そして、昨日のあれは夢なのだと諦めて、シャワーを浴びるために浴室へと向かった。
 私がシャワーを終えて髪を乾かし終えると、私はいつもの着物に着替え、出かけようと玄関に向かった。すると、銀之助はお行儀良くお座りしており、「我も行くぞ」とこちらに伝えているようだった。
「銀之助よ。今日は飯をいただきに行くわけではないぞ?」
 金色の瞳をこちらに向けながら、銀之助は「何をいっておる?」と首を傾げた。
 まぁ、問題なかろう。私≠ェ食べられなくとも、こやつには何故か多くの食料が流れていくのだから。
 私は秋が近づく畦道を、鼻歌を歌いながら歩いていく。そろそろ羽田さんの家に着くところで、銀之助は私の服の裾を口で咥え、引っ張り出した。
「どうしたというのだ、銀之助」
 奴は無言でこちらを睨み付けるだけだった。
「何か面白いものでもあるのか?」
 銀之助は首を振った。
 ……時々思うのだが、私がこやつの言っていることを何となく理解しているように、こやつも私が言っていることを何となくではあるが理解しているのではないだろうか。


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