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先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

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一章 関係-3

   関係/2
 さて、豊作の秋が来る一ヶ月前。私は、銀之助のために数冊の本を注文した。インターネットの通販で購入したもので、購入ボタンをクリックしてから、なんと三日後に届くというサプライズだった(普段ならば五日はかかる)のだ。
 配達員にお金を渡している間、銀之助は好奇心を抑えられぬとでも言うように金色の目を輝かせていた。私は背中に注がれるその視線を楽しみながら、銀之助には何も語らずに仕事部屋に向かう。銀之助はこちらを見ながら、とてとてと狼のような容姿に似合わぬ可愛らしい足音をさせながら、付いてきた。
 仕事部屋で私はパソコンの前に座る。銀之助は普段よりも僅かに近い距離で、先程と変わらぬ瞳を私に向けていた。
「銀之助よ。今日はお前にやるものがある」
 爛々と輝く瞳は、初めて見るものだった。体の大きさと同じく精神もまだ子供なのだろう。
「私も持っていなかった本だ。これはお前のために買ってやったのだ」
 私は梱包されたものの中から、一冊の絵本を取り出した。
「鶴の恩返しだ」
 私はその本を銀之助の前に置く。銀之助は、口を少しだけ開き「おー」と感嘆の声をあげているようだった。
「お主もいつか、その本の鶴のように、私に恩返しをするのだぞ」
 そう言って、私はついでに買った自分の本と、銀之助用に買った本を分けて置いた。
「こちらがお主の本だ。そして、こちらが私の本。いいか、人の本を読むときは今後許可を得るようにするのだぞ?」
 銀之助は私の言葉など無視して、鶴の恩返しを読み出していた。
「やれやれ。本当に子供が出来たようだ」
 子供を育てた経験など一切ないが、子供が出来たらこのような感情を抱くのだろうな、などと私はほくそ笑んだ。
 それから私と銀之助は読書に励んだ。私は前より読みたかった本を一文字一文字丁寧に読んでいき、それと同じように銀之助も本を読んでいた。
 本当に犬が本を読むとは、私は思ってはおらぬ。
 おそらくではあるが、銀之助は私の真似をしているのだろう。小説を書く時間よりも、読む時間の多い私だ。一応飼い主なのだし、その様を眺め続け、興味でも持ち姿だけでも真似しようと思っているのだろう。
 だから私は、奴の為にも今まで通りを徹底しようと思う。小説を読み、そして思い出したように小説を書く。
 それで良い。私はそれで良いのだ。
 気付けば日は暮れていて、夕飯の時間となっていた。私はカップ麺に湯を入れ、銀之助の餌箱にほんの少しだけ値段の高いフードを入れる。
 銀之助は鶴の恩返しを読み終わり、他の本を読もうともせずに、物思い耽るようにその絵本をじっと眺めていた。
「ギン、飯だ」
 銀之助は片耳をこちらに向けるが、居間に来ようとはしなかった。
「銀之助、そんなに気に入ったか」
 その言葉に銀之助は反応し、「わん」と蚊の鳴くような小さく声を上げた。
「おぉ、お前。喋れたのか」
 こやつは絶対に喋らない奴なのではないかと私は思っていたので、正直驚きを隠せない。
「ギン、もう一度喋ってみろ」
 しかし銀之助は、それから一言も喋らなかった。
 別段喋らなくとも、奴との関係に支障が出るわけではないので、私はカップ麺を食べることにした。私が食事を始めると、銀之助は鶴の恩返しの傍から離れるのを惜しむように居間に来る。そして、今までに見たことのない勢いで食事を平らげ、また仕事部屋に戻って行った。
「お前が機《はた》を織る姿は想像付かぬな。お前は隠れて庭でもいじっていそうだ」
 私は残りのカップ麺を銀之助のような勢いで流し込むと、銀之助と同じように仕事部屋に向かい、小説を読み始めた。


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