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先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

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一章 関係-2

 そんな銀之助との生活もあっという間に三ヶ月が過ぎ、今では私と銀之助はセットで扱われるようになった。
 銀之助と行動していないと、「今日はギンちゃんはお留守番かい?」や、「おや珍しい。先生一人かい?」などと言われる始末だ。
 私も私で、毎日夜中に銀之助に無意味に話しかけることが増えていた。おはようからおやすみまで、挨拶は一通りこいつにしておる。
 だがしかし、三ヶ月が過ぎようとも、銀之助は一言も喋ることはなかった。
 一応そのことについて玉城獣医師に相談したことはあるが、声帯に特に問題は見られず、こういう性格なのでしょう、と軽くあしらわれた。
 そんな生活のとある日だ。私は驚くべき光景を目にした。その日私は何もする気が起きず、居間で昼寝をし、夕方過ぎに目を覚ました。寝すぎた、と後悔し、つまらないミステリー小説の締め切りも近づいているので、執筆をしようと仕事部屋に向かったときだ。銀之助が仕事部屋に先に居た。しかも奴は、本を読んでいたのだ。
 私は二度三度と目をこすり、幻ではないかと思ったのだが、しかし全然幻ではなかった。
 銀之助は子供向けの絵本を読んでいたのだ。先に言っておくが、私は絵本などは非常に素晴らしいものだと思っている。情操教育に向いているということはだ、人の心を動かす力がその本にあるのだ。それを少々大人向けにアレンジしたものが小説というものであろうと、私は考えている。小説の初歩の初歩は、絵本にあるのだ。
 うむ。中々な名言だ。さすが小説家である。いやいや、今はそのようなことに浸っている場合ではない。
「おい銀之助。お主、本を読めるのか」
 私は銀之助に尋ねるが、奴は耳をこちらだけに向け、顔を向けることはなかった。
「銀之助。おい」
 再度呼ぶことで、銀之助は金色の瞳を向け「私はいま読書中なのだ。声をかけるな」と苛立たしそうに語る。三ヶ月程度の付き合いだが、私が予想する奴の言葉は、全て正しい気がしてならない。
「銀之助、ギン」
 奴はついに無視して、本を読み出したようだ。爪でページを一枚一枚丁寧に捲っていく様は、本当に人間を見ているようで、違和感が沸いてくる。
「銀之助」
 何度呼んでも、結局奴は反応を示さなくなり、仕方なく私は例のつまらないミステリー小説を執筆することにしたのだ。


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