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先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

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一章 関係-1

  関係/1
 玉城獣医師の治療以降、私と銀之助の共同生活が本格的に始まった。銀之助は、山にすぐ帰るような恩知らずな仕草を見せずに、私の家へと留まった。とは言え、私に懐いたというわけではないらしく、私とは常に一定の距離を保って生活をしている。私に特定の時以外は甘える仕草を見せることはなかった。
 銀之助が私に擦り寄ってくるのは、ブラッシングをして欲しいときと風呂に入るときだけである。
ブラッシングをして欲しいときは、大概私が小説を書いているときで、ブラッシングをするまでは体を摺り寄せてくる行為を止めなかった。仕方なく櫛を通してやると、気持ちよさそうに体を預けてくるが、少しでも自分の触れられたくないところに櫛を通すと、あの金色の瞳を私に向け、「貴様、何もわかっておらぬな?」と、無言の抗議をしてくる。
 そして、私が湯を溜め、いざ湯船に浸かろうかと思うと、銀之助は器用にも戸を開け、侵入してくる。最初はかまって欲しいからかと思ったが、そんなことはなかった。銀之助は私が湯船に浸かっているにも関わらず、そこに入ろうとするのだ。何度もそれを注意したが、止める気はないらしく何度もその行為に及んだ。仕方なく私は、大きめの桶(子供一人が遊べるようなもの)を特注し、それを浴室に置いた。そこに湯を張り、銀之助に「ここがお前の湯船だ」と言うと、理解したのか、その桶があるときは私に一瞥もくれずにそれに浸かるのだった。私が湯船から出ると、今度は体を洗えとでも言うように、シャンプーを口に咥える。更には、桶がないときは、「貴様、何故準備せぬ?」とでも言うように、やはりあの金色の瞳で語るのだった。ちなみに、桶は五万円もした。
 また、銀之助の生態も少しずつわかってきた。
 こやつは、上品な奴だった。
 地べたに餌箱を置いても決して食しはしなかった。最初は野良犬であるが故に、人から与えられぬものに慣れぬのだろうと思っていたが、そうではなかった。
 銀之助は、人間と同じように、食卓≠ニいうものを理解しており、決してそこらにいる野良とは違う。地べたのものを食べるのは、野良がやることだと考えているのだろう。
 あまりにも餌箱に入れているものを食べなかったので(治療後三日、銀之助は何も食べなかった)、試しに私がいつも食事をするコタツの上に置いてみた。
 するとどうだろう。あやつは今まで拒否していた餌を、急に食べ始めたのだ。そして目で「もっとよこせ」と語るのだ。私はおかわりを奴の餌箱に入れ、今度はそれをコタツより下ろして置いた。すると一切口にせぬ。餌箱をただ見つめ、「なんだこれは?」とでも言いたげな態度を示すのだ。私は、まさかな、と思いつつまたコタツの上に置く。するとやはり食べ始めるのだ。
 銀之助の上品さを語るのにはもう一つ理由がある。
 あやつは糞尿をそこらで済ませぬ。
 なんと、便所に行って用を足すのだ。教えたつもりなどないのに、便所の戸を開け、きちんとお座りして用を足す。しかも、見られることに羞恥心があるのか、私が見ている前では用を足さなかった。この事実を知っているのは、私がこっそりと奴の様子を観察したのだからである。
 まぁ、それだけ銀之助は上品な奴なので、世話にはあまり手間はかからなかった。毎日体を湯で流すわけで、またトイレもしっかりとしている。そのせいか、動物特有の獣臭さも無い。
 ん? 運動はどうかだと? あぁ、それは気にする必要はない。奴は、私が家を出ると必ず付いてくるのだ。
 しかも一定の距離をしっかりと保って。
 私が羽田さん達の手伝いをしているときは、適当なところで寝ていたりしている。私が仕事を終えて動き出すと、奴はまた私と一定の距離を保って歩き出すのだ。ときたま急に走り出して私を追い抜かし、随分と遠くに行ったなぁ、と思うと、再度その道を戻ってきて、私とのいつもの距離を保つといった奇行も見せている。これに関しては、走り足りないので勝手に自分で運動しているのだろうと私は推測している。


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