投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

先生と銀之助の最初へ 先生と銀之助 17 先生と銀之助 19 先生と銀之助の最後へ

一章 関係-12

「そ、その酒は!」
 『十四代「純米大吟醸」龍泉』ではないか!
 さすが獣医師。まさか一本一万云千円のものを用意しているとは!
「玉城獣医師、ここは一旦休戦して、その酒を休戦の証として飲み交わさないか?」
 玉城獣医師は意地の悪い笑みを浮かべながら、「別に構いませんよ」と言う。私にはその笑みの真意がわかっている。一つ借りを作ってやった、という笑みである。
「何だよ、先生。玉城さんとずいぶんと仲良しだね!」
 羽田さんはとても嬉しそうに酒を飲む。ちなみに羽田さんが飲んでいるものは、自家製の梅酒だった。私も以前に羽田さんからいただいたのだが、これが中々どうしたことか、炭酸水で割ると美味いので驚いたものだ。
「羽田さん、その梅酒。やはりあの親戚の方が作られたものですか?」
「そうだよ。和歌山で作ってくれてるのさ」
 ぬぅ。その酒も惜しいが、今は滅多に飲めない『十四代「純米大吟醸」龍泉』の方を優先しよう。
 私は注いだ酒を一気に飲み干し、玉城獣医師が持っている十四代「純米大吟醸」龍泉を手に取ろうと手を伸ばす。
「その前に、銀之助ちゃんに何かあげては?」
 銀之助は既に先ほどの蟹を食べ終わっており、「まだあるであろう?」と金色の瞳をこちらに向ける。
「わかったわかった。ほれ」
 私は自分用に取っておいた身を銀之助の小皿に移す。
「あとで奥様がお前用に用意してくれる。今はそれだけで我慢しろ」
 銀之助はすぐに平らげてしまい、やはり金色の瞳をこちらに向ける。
 こんなに食い意地が張っているようでは、淑女とは呼べぬであろうに。全く、こやつがメスであると知っていれば、本当にもっとまともな……例えば°竡qとでも。いや、やはりこやつは銀之助であるべきである。女に男のような名前を付けるのがアクセントになり、良い響きのように感じると聞いたこともある。
「まぁ何はともあれ、ください」
 私は空いたグラスを玉城獣医師に向けた。彼はにやりと笑うと、私のグラスに注ぐ。
「今日だけは特別なのでこれ以上文句は言わないようにしましょうか」
 酒が入っているときだけは良い奴なのかもしれないと思う私が、確かにここにいる。
「いいねいいね! 今日は無礼講だ!」
 羽田さんは大層楽しそうに言うと、奥様に「どんどんつまみを持って来てくれ!」と言った。


先生と銀之助の最初へ 先生と銀之助 17 先生と銀之助 19 先生と銀之助の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前