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先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

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一章 関係-13

関係/7
 いつの間にか私は酔いつぶれていた。とは言ってもそこらで眠ってしまったのではなく、単純に体調が悪くなっただけだ。
「なんだい先生。前より弱くなったね」
「今日はちゃんぽんもしましたしね。帰りますよ」
 私は立ち上がるが、体がふらついてしまう。近くの食器棚を支えにし、軽く私は頬を叩いた。
「先生、無理しないで泊まっていきなよ」
「お心遣い感謝します。ただ、今日中にどうしても仕上げたい原稿もありますので」
 嘘であった。そもそも、今日中に仕上げなければならないのならば、私はこんなになるまで飲もうともしない。
「そう、かい」
 羽田さんは、優しい人だ。おそらくではあるが、今私が考えたことを察して、特に追求しようとはしないのだろう。それは狐獣医師も同じで、私を軽く睨み付けてくるのだが、それは私が普段感じているような、嫌なものではなかった。
「無理してはいけませんよ」
 狐獣医師はそう言うと、奥様が作られたつまみを照れ隠しとでも言う様に一口頬張った。
「ははっ。玉城獣医師が心配するとは、明日は槍でも降りますよ」
「言ってなさい、変人小説家の万里さん」
 相変わらず口は悪い人だ。だが、嫌味を言うだけの人物ではないということがわかったのは、今日の収穫である。
「では失礼します」
 おぼつかない足取りで、私は羽田家をあとにした。
 鈴虫の羽音が、家路を彩る。ふらふらと歩いていると、銀之助と出会った茂みの前に着いた。
「これ銀之助、ここで出会ったのを覚えているか」
 私は後ろを振り向いたが、そこに銀之助の姿はなかった。
「……またお前か」
 私が振り向くと、銀之助ではなく、そこにはあの女がいた。
「これ、万里 凪よ」
 私は大きくため息をついた。
「待て、私に先に話させろ」
 私が振り向いた先には、あの女がいた。
「なんだ、万里 凪よ」
「お主、銀之助であろう?」
 女は、こちらをちらりと見て、ニヤニヤと笑う。
「ようやく気付いたのか、万里 凪」
 私は目の前の非現実に、先程までの酒気が徐々に薄れていくのを感じる(まぁ、酔ってはいるが)。
「良いか、銀之助。私のことは主《あるじ》と呼ぶのだ」
「何故お主のような人間をそう呼ばねばならぬのだ。傲慢であるぞ」
「お主のような犬の物の怪に言われたくはないわ」
 この女は銀之助で間違いないようだった。酔っている頭でも何となしにわかる。私の唯一の取っ掛かりであった、性別と言う問題も今日で解けた。
「しかしだ、銀之助。何故人間の姿に化けることができるのだ」
 何度もこの姿の銀之助を見ているので、もう一時の幻であるとは思うことはなかった。
「私がこの姿になって問題があるのか?」
「問題ない。どうやら、人の目も気にしているようだしな」
 銀之助は妖艶な笑みを浮かべると、「そうであろう? 私は気遣いができるのだ」と私が言葉を繋げる前に、偉そうに無い胸を張る。
「わかったわかった。して銀之助。お前、何者だ?」
「貴様のような人間に名乗るシンメイはない」
 これまた偉そうに銀之助は胸を張る。
 シンメイ……? 真の名の真名のことか。まるで逸話に出てくる英傑のようだ。
 ははっ。いずれこやつから本来の名前を聞き出すのも一興であろう。
「とりあえず我が家に向かうぞ。今日はお主も飯をたらふく食えて満足であろう?」
 私は歩を進めた。それに銀之助は、犬の姿と同じようにとてとてと足音を立てて付いてくる。
「うむ。しかし羽田家は、さすがである。私が目を付けてやっているだけある」
どうやら銀之助は羽田さんの奥様が作られた料理に非常に満足しているようだ。


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