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先生と銀之助
【ファンタジー その他小説】

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一章 関係-11

「羽田さんまでそれを言いますか。別にいいでしょう、銀之助という名前、私は結構気に入ってますよ」
 ちなみに、私は先に身をほじり出してから一気に食べるタイプである。羽田さんと玉城獣医師は、どうやらそういったタイプではなく、身を出してはすぐに食べていく。こういったタイプの人物がいるからこそ、蟹を食べているときは無口になる、と言われるのだろう。
「先生が気に入っても仕方ないじゃあないか」
 羽田さんはその一言だけ吐くと、また黙って蟹を食べ始める。
 ははは、羽田さん。あなたのようなお優しい方からの突っ込みほど、心が抉られるものはない。
 足を一本二人が食べ終わるときに、私のことをじっと睨み付けている銀之助を手招きして、こちらに呼び出す。
 銀之助は、待ってましたとでも言いたげにいつもよりも早いペースでこちらに歩み寄ってくる。
「ほれ。玉城獣医師に適当に感謝して食え」
 私は小皿に銀之助分の蟹の身を入れた。銀之助は、嫌そうに……とても嫌そうに玉城獣医師を見て、「ぐるる……」と威嚇するように声を出すと、蟹を食べ始めた。
「そうか。銀之助もこの玉城獣医師を気に入らぬか」
 私は羽田さんの奥様のように頭を撫でようとしたが、金色の瞳がこちらを鋭く睨み付ける。「私が食べているときに触るな」とでも言いたげである。
 何故銀之助は私に対してここまで冷たいのだろう。
「先生、日本酒飲むかい?」
 羽田さんはどこから出したのか、私が好きな日本酒である『上善水の如し』を取り出し。飲みやすい酒で、まぁ、あれだ。名前通り水のように飲めてしまう日本酒だ。
「いただきましょう。何より、羽田さんの酒を断るわけがありません」
 私がそう言うと、羽田さんの奥様は何も言わずに、切子グラスを私に手渡した。
「さすが羽田さんの奥様だ。その気遣い、とても嬉しい。惚れてしまいそうだ」
「残念だわー。この人と出会う前だったら、きっと私は先生と結婚していたのに」
 羽田さんの奥様は良い笑顔を見せながら、またキッチンに戻る。少しゆっくりしていけばいいのに。というより、あの方は酒を飲まないのだろう。まぁ、なんだかんだで、私や玉城獣医師のためにつまみを作ってくれているのだから、仕方ないか。
「先生、先生よ。俺はね、いつも思うんだ」
 羽田さんは大分酒が回ってきているようだ。私は残っているビールを一気に飲み干して、羽田さんから例の日本酒をいただき、自分で注ぐ。
「なんですかな?」
 銀之助の名前に関しては既に忘れられているようだ。
「銀之助ちゃんはね、女の子なんだよ」
 ……どうやら、銀之助の名前に関しての話題は続いていたようだった。
「銀之助が、メスですと?」
「そうだよ先生。銀之助ちゃんはね、女の子なんだよ。それなのに銀之助ちゃんって、男の子のような名前でさ。そりゃあ確かに男の子のような見た目ではあるけどさ」
私は玉城獣医師を見る。
「本当ですよ。だからおかしいと言ったじゃあないですか」玉城獣医師は私の視線に気付いてはいるのだが、私と目を合わせずに言葉を発した。
「それは名付けたときに言ってくださいませんか?」さすがに事前にメスだと知っていれば、もう少しマシな名前を付けたと言うのに。
「言いませんでしたっけ?」
「言ってない。全くあなたという人は……」
 私は日本酒を一気に煽る。
「おやおや、小説家というから、もう少し酒に弱いと思っていましたが、存外やりますね」
「ははは、狐獣医師には負けませんよ」
 玉城獣医師の方眉が不機嫌そうに釣りあがった。
「ほう。ひ弱な変人小説家が私のような、*スを助ける職に勝ると?」
 くっ……こいつ、やはり中々侮れぬ。
「さすがに命を助ける職種には勝てません。しかしだ、玉城獣医師。どうですか、ここらで決着を付けませんか?」
 私は日本酒を自分のグラスに注ぐ。
「ははは、何を言いますか、万里さん。あなたが飲んでいる酒と私が飲んでいる酒では、勝負になりません」
 彼は自分の近くから、一本の酒を机に置いた。


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