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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-4



夕暮れに染まる遊歩道を、瑞稀と拓斗は手を繋いで歩いていた。
今は、試合会場からの帰り道。電車を降りて、最寄駅から歩いて瑞稀の家に向かっている。
本当はバスに乗った方が早いが、お互いまだ一緒に居たいと望んでいる為にわざと時間をかけたくて歩いている。
二人の間を行き交う会話は途切れることは無く、自然と小学校時代を思い出させる。
あの時とは、だいぶ自分も、拓斗との関係性も違っていたというのに。
お互いの高校の話をしながら、瑞稀は拓斗がどれほど剣道が好きなのか知りたくなった。
小学校の時から道場に通っていて、もう大会を何度も優勝している拓斗は剣道を将来どうするつもりなのか。
聞きたい衝動に駆られ、だが躊躇って思わず繋いでいる手に力を込めてしまう。
微妙な力に気づいた拓斗は瑞稀の顔を覗き込んだ。

「どうした?」
「あ、いや、あの・・、えっと・・」
「何?」
「・・拓斗って、どれくらい剣道、好きなのかなって」
「剣道?すげー好きだけど」

急に変わった話なのにも関係なく優しく答え、それがどうかしたのかと、聞いてきた意図を汲み取ろうとする姿に、瑞稀は嬉しさを感じる。
素直に、続きを話すことにした。

「拓斗って、大会何個も優勝してるんでしょ?それって、すごいなって。そこまでやれるのって、好きだからだよなーって思ったから」
「あぁ・・確かに、好きじゃなきゃ続かないしな」

楽しそうに笑った拓斗は、そのあとで「瑞稀のトランペットと同じだよ」と言葉を続けた。瑞稀も、「そうだね」と釣られて笑う。
確かに、瑞稀だってトランペットが大好きだ。大好きだから部活に入ろうとも思ったし、続けようとも思った。ましてや、才能なんて開かなったかもしれない。まぁ、才能を開くには拓斗への想いも必要だったのだが。

「でも、まだまだ足りないな」
「・・何が?」
「剣道。大会でもっと優勝したいし。」

軽く伸びをした拓斗はそう告げた。まだ優勝し足りないんだと恋人の初めて知った貪欲さに笑った。その時、瑞稀の心に引っかかるモノを感じた。
その原因が何か頭を悩ませていると、拓斗から言葉が聞こえてきたので慌てて視線を向ける。その時に見た拓斗の顔が、瑞稀の心を引っ掛けたモノと繋がるような気がした。

「俺は、世界の大きな大会で優勝するのが目標だから。五輪とかさ。それにはまだ全然足りないよ」

そう告げた顔は、瑞稀でも見たことがなかった表情。
目の前の標的を逃さないとばかりに睨むような負けん気の強い、でもそれ以上に凄く楽しさを感じて、ワクワクしているような無邪気さがどこか残る顔。
返す言葉も忘れて、瑞稀はその顔に魅入った。いや、言葉が出なかった。の方が正しい。

この人は、先の先を目指してる。剣道の先に見える世界を。
誰よりも貪欲に。誰よりも生意気に。誰よりも、純粋に。

「(・・私は、どうなんだろ・・)」

私は、トランペットに何を求めているんだろうか。
自分が進んだ先の未来に、何を目指しているんだろうか。

「(私には、トランペットがある・・)」

だが、それだけで、何を目指すんだろうか。トランペットの先に見える世界なんてなんだろう。
トランペットの才能も開花した。団体賞も、取れた。
・・・・自分だけで?自分は?

「(・・・ない。私には、目指すモノも、頑張ったという結果も・・)」


何も、見当たらなかった。
長年の拓斗の努力の結果。それらは全て今日感じることが出来た。
何度目かの大会の優勝。全国に広まり始めた名前。女子のファン。高い目標を成し遂げようとする貪欲さ。
それが、自分には・・無い。

「(・・・どうしよう・・)」

瑞稀の心に刺さったモノが、心の中に広がり始めた。
それはこの先にある不安でもあり、トランペットをどうしたいのかという不安。

「(・・私・・拓斗の隣に立てるのかな)」


この先ずっと一緒にいて、もし、拓斗が目標を超えてしまったら。
その時、自分は胸を張って隣に立てるのだろうか・・。


瑞稀の不安、焦りが心に渦巻いた瞬間だった・・。



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